第80話 試験会場

「さてと、今考えることは試験のことよ! 行くわよ!」


 そう意気込み目の前の建物を見上げる。建物自体は研究所棟と似たような感じかしら。中へ入った感じも似たような感じだった。エントランスに続く長い廊下と、正面には二階へと続く階段。エントランスにはローブを着た男性が立っていた。手にはなにやら書類のような紙の束を持っている。


「ここは国家魔石精製師の試験会場だ。受験生かな?」


 男性は私を見るとそう声を掛けた。


「はい!」


 小走りにその男性へと近付いた。


「受験票を見せなさい」

「はい」


 言われるがまま鞄から受験票を取り出し男性へ手渡す。受験票には、


『国家魔石精製師試験 〇月〇日〇時より 魔導省魔導師団施設内にて

 受験番号5  受験者名 ルーサ  推薦者 国家魔石精製師ダラス王都01』


 そう書かれている。推薦者がいる場合は提出した書類にその人の名も明記する。だから私の場合は師匠であるダラスさん。受験票にはダラスさんの名と証明タグも明記されている。

 ダラスさんの名が入っていることで、身が引き締まる。ダラスさんの顔に泥を塗らないようにしないとね。絶対合格してやるんだから!


 男性は受験票を見詰め、私を見た。


「名は本名か?」

「は? え? はい、そうですが……」

「ふむ……そうか」

「な、なにか問題でも?」


 じっと顔を見詰められたじろぐ。な、なに?


 男性は少し考え込むような素振りを見せたが、それを振り払うように小さく首を振る。


「いや、すまない、なんでもない。ダラスさんの弟子なんだね。頑張って」


 そう言ってにこやかに受験票を返してくれた。な、なんだったのかしら……。


「試験会場は右手の廊下を行って、突き当り左側の部屋だ」

「は、はい。ありがとうございます」


 受験票を受け取り、男性が指差した廊下へと進む。

 名前が本名かって、なんでそんなこと聞かれたんだろう……名前を変えていることに気付かれた? いや、でも別に名前を変えたところでなにも問題ないと思うんだけど……。なんだろう、この気持ち悪い感じ……。


 そんなことをモヤモヤ考えながらたどり着いた部屋。突き当り左側の部屋はすでに扉は開かれ固定されていた。受験者が分かりやすいように開かれているのかしら。部屋のなかが一望出来る。


 広い部屋にはたくさんの机と椅子が広い間隔を開け並んでいた。机も大きく、どちらかと言えば作業台といった感じかしら。


 すでに数人の人たちが席に着いている。男女バラバラだし、年齢も若い人が多いけれど、年上そうな人もいる。皆、私と同じように魔石精製の神託を受けて修行してきた人たちなんだろうか。


 おずおずと室内へと足を踏み入れると、一斉に視線が集まり緊張する。机には受験番号が書かれた札が置いてある。自分の番号を探す。

 座席は全部で二十席。一列五席で四列並んでいる。私は五番だから廊下側一番後ろの席ね。

 すでに座っている人たちに会釈をしながら机の間を通り抜けていく。一番後ろの座席には机の上に五の札が置かれていた。


 椅子に座り一息つく。緊張をほぐすために大きく深呼吸を。そうやって気持ちを落ち着けていると前の座席に座る女の子が急にぐりんと振り返った。思わずビクッとしてしまう。


「はじめまして! 私メル! よろしく!」

「え、あ、はじめまして、私はルーサ。こちらこそよろしく」


 ニカッと笑う顔が可愛らしいそばかすの女の子。赤茶色の肩まで伸びる髪はふわふわと柔らかそうで、動くたびに揺れている。琥珀色の瞳をキラキラさせながら嬉しそうに見詰めてくる。ちょっとびっくりしたけれど、同い年くらいの女の子とお友達になれたのは嬉しいな。


「ルーサって何歳? 私、十六!」

「え、十六なの!?」


 年下だった!! そう言えば、年下の人と親しくなるのは初めてかもしれない……。


「私は十七。十六で試験を受けに来るなんて凄いね」

「んー、私、師匠いないから早く試験に受かって店持ちたいんだよねー」

「え、師匠いないの!? なんで!?」

「え? なんでって師匠いない人も結構いるんじゃないかな。魔石精製師自体が少ないし、弟子取りたくない人もいるし」


 あぁ、ダラスさんみたいな、と納得はするが、師匠がいない人もいるのか……。そう考えると私はダラスさんに無理言ってでも頼み込んでくれたお父様に感謝かな……お父様……。


「ルーサは師匠いるの?」

「あ、うん。ダラスさん。知ってる?」

「え! ダラスさん!? 城に一番近い魔石屋のダラスさん!?」

「え? う、うん、そうだけど……」


 メルが大きな声を出したものだから、部屋中の皆がこちらを見た。え? え? な、なんか注目浴びてるんだけどー!


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