第82話 試験開始!

 配られた手元の試験用紙を見る。内容は……


『魔石の基礎知識、精製魔石について、市場の価格について』


 ダラスさんが教えてくれた通りの内容だ。

 魔石の基礎知識はどんな種類の魔石があるか、魔石はなにから出来ているか、どのような付与が行えるか、など。それらが細かく分かれた問題となっていた。


 精製魔石については精製の工程、魔力の種類、出来上がった魔石の様子、特殊魔石の精製方法、など。段階を追って書いていくような問題。


 市場価格については、最近の魔石の価値や価格、どのような流通が行われ、魔導師の付与価格、どのような魔導具として使用されるのか、魔導具としての価格、など、主にお金に関する問題。


 うん、筆記試験は今までずっとやってきたことばかり。大丈夫! 見落とさないようしっかりと読み、記入していく。


 静かな部屋のなか、カリカリとペンを走らせる音が響く。皆、集中し書き込んでいく。途中、どうやって書いたら良いものか、と思うような質問もあったりしたが、自分の思い付く範囲で必死に書いていった。



 窓が開け放され穏やかな風がふんわりと流れる部屋。次第に書き終えたと思われる人たちが、溜め息を吐いたり、伸びをしたりと、少しずつ部屋にペンの音以外が響いてくる。


 私もなんとか全ての解答を書き終えると、ホッと息を吐くのと同時に緊張からドッと疲れが押し寄せる。

 椅子の背凭れに身体を預け、ボーッと部屋を眺めていると、なんだか不思議な気分にもなった。


 私はローグ伯爵家の一人娘だった。十歳のときのあの神託がなければ、今こうしてこの場にいることもなかった。魔石は昔から大好きだが、だからといって仕事にしているとは思えなかった。伯爵家の人間として生きていくものだと思っていた。

 それがなんの因果か、魔石精製師を目指し、しかも両親は行方不明となり……領地まで失った……。ダラスさんの弟子になれたことは運が良いのだろう。私はこうなる運命だったのか、全ては神託から始まった……偶然だったのか、必然だったのか……。



 そんなことを考えている間に、終わりの合図が響き渡った。試験官は懐中時計で確かめながら、声を張り上げる。


「終了だ! 一番後ろの者! 自分の列、全員分の解答用紙を回収して持って来てくれ」


 一番後ろ……私だわ! 慌てて立ち上がり、順に解答用紙を受け取っていく。メルはニッと笑っていた。

 全員分の用紙を試験官に提出し、席へと戻る。


 試験官が用紙をまとめている間に、試験官と同じような服装の人が二人、カチャカチャと音を立てながら、大きな荷物を抱え入って来た。


「次は精製魔石だ。各自、前から器材を取っていけ」


 入って来た二人が抱えていたものは、箱に入った精製魔石に使用する器材。乳鉢に清水、ろ紙にろうとにビーカー、それに加熱用の魔導具と魔石原石のかけら。それらが一つの箱に収まっていてそれを受け取っていく。


「まずはろ過、蒸留の精製魔石。そのあとに魔力練り上げの精製魔石だ。どちらも付与魔力対応は自由だ。それらを受験番号と名前の付いた箱に入れて提出」


 全員に器材が渡ると、皆ガチャガチャと箱から取り出し準備をする。


「これも二時間だ。では、開始!」


 よし! と、気合いを入れ、腕まくりしつつ原石と乳鉢に手を伸ばす。そしていつものごとく、ゴリゴリと……。あちこちからゴリゴリと音が響き渡り、思わず笑いそうになってしまう。それは皆、同じだったようで、先程の筆記試験のときよりかは空気が柔らかかった。


 ゴリゴリとすり潰した石を清水と混ぜ合わせろ過していく。ろ紙を広げ、ろうとに装着させる。そしてビーカーにろ過させていく。


 これで、ある程度の不純物を取り除くことが出来て魔素が含まれるものだけが残るのよね。

 そこからさらに蒸留し、ビーカーに溜まった魔石水を魔導具で加熱していく。加熱されると魔石水は不純物と純水とに分けられ、魔素の純度も上がっていく。その出来上がった純魔石水を魔力で結晶化させるのだ。


 別のビーカーに溜まった純魔石水。それを持ち上げクルクルと動かしながら、結晶化の魔力と、付与魔力に合わせた魔力を送っていく。次第に純魔石水は粘りを持つかのような鈍い動きになってくる。透明だった色も次第に赤く色付いてきた。

 粘りがあった純魔石水はスライムほどの固さとなり、今度はビーカーから取り出す。両手にそれを持ち、掌で包み込む。そしてさらに魔力を送りこんでいく。


 柔らかかったスライム状の純魔石水は宝石の固さとなり、小さな丸い結晶となった。


「よし、まずは一個完成ね」


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