第67話 砂漠の街ランバナス

「うわぁ、凄い賑わってるわね!」


 ランバナスの街へと到着し、街の入り口付近で乗合馬車から降りる。御者にお礼を言い、街を歩いて行く。


 すでに陽は暮れかけていて、あちこちランプが灯され始めている。王都ほどの広さはないが、それでも活気に溢れた街という印象だ。多くの人々が行き交い、夕食時の店への勧誘か、あちこちで大きく声を上げていた。

 建物自体はそれほど高いものはなく、精々二階建てまで。石造りで出来た建物が並ぶ。地面は整地されてはいるが、石畳が敷かれているとかではない。街全体が砂の色と同系色で彩りと言えば、店の看板くらいかしら。しかし夕陽が街を染め、街全体が真っ赤に見える。


 陽射しを遮るためか、頭には帽子をかぶっていたり、ターバンを巻いていたりする人が多く見かけられた。砂が混じる風を防ぐためだろう、口元を覆っていたり、フードをかぶっている人も多い。


 さすが砂漠地帯へと来ると、街の雰囲気だけでなく、人々の服装も大きく違うのね。面白いわ。


「さて、先に宿に荷物を置きに行くか」


 ディノが先頭を歩きつつ、振り向きながら言った。


「そうね、それから夕食にしよう」


 ディノは頷き、何度か利用したことがある、と常連になっている宿まで案内してくれた。少し歩いた先、街の中心辺りにある小さな宿。二階建てではあるが、他の建物と比べると小さいほうかな、という印象。


 ディノ曰く、小さい宿だが宿の主人も気さくで良い人だし、すぐ隣に食事処があるから便利なんだ、ということだった。私自身は初めてのことだらけで、なにも分からないので、全て二人にお任せする、ということを伝えた。


「お、ディノとイーザンか? 久しぶりだな。いらっしゃい」


 宿の入り口を入って早々に、カウンターから声が聞こえた。そこから顔を覗かせた男性はダラスさんよりも少し年上のような雰囲気で、薄茶色の髪と瞳をし、顎には髭が綺麗に整えられていた。


「おっちゃん、久しぶり」


 ディノは嬉しそうな顔で手を上げ、男性に近付いていった。


「今日は三人で泊まりか? お、珍しいな、女の子なんかいるのか」


 ディノの後ろに目線をやり、私を見付けると少し驚いた顔になった。


「あぁ、この子が今回の依頼主だ」

「えっ」


 そう言ってニッと笑うディノ。おじさんは驚き目を見開く。ディノは簡単に今回の仕事内容を説明していた。おじさんは感心しているのか、驚いているのか「へぇ」と頷きながら私たちに目をやっていた。


「そういうことならお嬢ちゃん頑張れよ!」


 アハハと笑ったおじさんは手続きをしてくれる。ちなみに宿代や食事代は各自で支払う。仲介屋への普段の依頼金としては、内容や危険度に沿って金額が決められているのだが、泊まりになった場合の宿や飲食については、追加料金を支払っているので、当日依頼主が護衛人の宿代や食事代を支払うことはしない。だから、お互い気にすることなく好きなものを食べたりするのも自由だし、依頼主と宿が別になることも珍しくないらしい。


 ディノはおじさんから鍵をもらうと、それぞれ私たちに渡した。

 三人それぞれ別々の部屋だ。それほど多い部屋の数でもなく、二階へと上がると部屋は廊下を挟み、左右に五部屋ずつあるだけだった。一階には受付とエントランスの他に、小さな風呂と水回りがあるらしく、共同で使ってくれとのことだった。


 私たちの部屋は三部屋並んで、護衛という名目上、私の部屋が真ん中に、両脇に二人が泊まることとなった。


「とりあえず荷物だけ置いたら飯に行くぞー」


 ディノがそう声を掛け、各々部屋へと荷物を置きに行く。部屋自体は簡素で小さな部屋だが、ベッドは綺麗に整えられ、小さな机と椅子も比較的新しそうで綺麗な部屋だった。

 窓からは外の景色が見え、いまだ行き交う人々が賑わっているのが見えた。


 大きな荷物だけを部屋へと置くと、すぐ外へと出る。扉の前ではすでに荷物を置き終えた二人が待ってくれていた。


「よし、じゃあ行くか」


 身軽になった私たちは隣にあるという食事処へと足を運んだ。


 店へと入るとすでに多くの人で賑わっており、広い空間にたくさんのテーブルと椅子がある。所謂大衆食堂といった感じかしら。

 子供もいたりはするが、比較的に大人の男の人が多い気がする。やはり仕事で移動中の人たちだろうか。皆、お酒を飲んでいるのか、大きなジョッキを持ち豪快に飲んでいる。


 ディノは慣れたように、空きテーブルを見付けるとさっさと歩いて行く。イーザンもそれに慣れているようだ。私は慌ててそれに続く。


「いらっしゃい、なににする?」


 テーブルに着くとすぐに、店の人だろう、恰幅の良い女性が声を掛けて来た。この店の女将さんだろうか。


「ルーサはどうする? 俺が適当に決めるか?」


 メニューをこちらに渡してくれるが、見てもよく分からない。大人しくディノの言葉に従った。


「うん、ディノの任せるよ」


 そう言うとディノは頷きながらニヤッと笑った。え、なにその笑顔……。

 ディノは女将さんにあれこれ注文していく。そんなディノとは関係なく、イーザンは自分で注文していたが。


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