第68話 自分の弱さ
「明日は朝から出るんだよな? なにか確認しておくこととかあるか?」
ディノは料理を待つ間に明日の確認をする。
「うん、そうね、朝から時間が許す限りは挑戦したいかな、と思ってる。ただ、私の魔力では精々二個くらい、多くても三個採取出来たら良いほうだから、それ次第になるかもしれない」
「二個というのは?」
イーザンが無表情のまま聞いた。
「えっとね、魔獣や魔蟲からの魔石採取は魔石精製師の魔力を多く使うの。一つ精製するのにかなりの魔力を持っていかれるから、一日に二個採取したら私の魔力はほぼ枯渇しちゃうのよね」
「へぇぇ、そういうもんなんだな。魔石精製師の魔石採取なんて初めて見るから楽しみだ」
ディノがワクワクといった顔だ。イーザンは「ふむ」と真面目な顔。
「で、採取の方法とは? タイミング的になにか注意することはあるか?」
さすがというかなんというか、イーザンは色々と確認をしてくれる。それに気付いたディノが慌ててキリッとしたため、笑いそうになった。肩に乗るルギニアスが小さく「こいつは馬鹿だな」とディノを見ながら言ったため、苦笑してしまった。
「採取は魔蟲の体液を結晶化させていくんだけど、死んだ直後じゃないと体液はすぐに腐敗していってしまうから魔石には出来ないの。だから死んだ瞬間が勝負なんだけど……」
「けど?」
イーザンはこちらを真っ直ぐに見詰め聞いてくる。
死んだ直後という判断はダラスさんと共に行っていたときは、それなりにタイミングを理解していたと思う。でもいざ自分一人だと不安になる。それが合っているかどうかの判断が一人ではまだ怖いのだ。失敗すると魔石にはならない。そうすると何度も戦ってもらうことになる。その分危険度も上がる。そうやって悩んでいると、ふとレインさんの言葉が頭に浮かんだ。
『困ったことや不安なことも口に出しちゃいなさい!』
そっか、そうだよね。一人で悩んだところで解決するどころか、二人を危険に晒すかもしれないんだから、二人にもちゃんと話そう。
「魔蟲からの体液結晶化は死んだ瞬間に行わないといけない。でも……正直、私は自信がない」
口に出してしまった……不安を出してしまった。でも二人とも真面目に聞いてくれている。
「死んだ瞬間に採取出来なければ、何度も二人には戦ってもらうはめになるかもしれない。そうなると危険度も上がると思う……だから、なるべくそうならないためにも、死んだ瞬間のタイミングを教えてもらいたいの……」
周りの人たちに頼ること、それは恥ずかしいことじゃない。
レインさんはそう言ってくれたけれど、いざこうして口にしてみると、自分が酷く情けない気分になってくる。
自分でなにも出来ないのか、そう思われるのが怖い…………そっか、私は自分が情けないと思っているというよりも、自分が情けなく思われることが怖いのか。自分の弱さがなにか分かった気がした。私は人からどう見られているか、どう思われているかが不安なんだ。
「よし、分かった! 倒した瞬間に声を掛けたらいいんだな? そんなことなら簡単だ!」
ディノがニッと笑って言った。ガバッと顔を上げ二人に目をやると、ディノもイーザンも怪訝な表情一つなく、頷いて見せた。
「なにを気にしているのか知らんが、そういうことは言ってもらわないと私たちも分からない。効率良くこなしていくために必要なことならなんでも言え。それに対して私たちはなにも拒絶しないし、否定もしない」
イーザンの言葉は私の不安を取り払ってくれるようだった。ディノはうんうんと頷いている。
拒絶しないし、否定もしない、その言葉が胸に沁みる。
「うん、ありがとう」
ちょっぴり泣きそうになってしまった。
こうやって不安を受け入れてもらえるということはなんて嬉しいことなんだろう。口にして良かった。受け入れてもらえて良かった。
「私……今回の独り立ちに二人と来られて良かったよ」
そうやって心から嬉しい想いを、笑顔にして二人に向けた。ディノも満面の笑みでアハハと笑っている。イーザンもフッと微笑んだ。
「お待たせ!」
そうやって話していたとき、女将さんがテーブルに注文した料理を次々に運んで来た。テーブルには思っていた以上に大量の皿が並んだ……。え、これ、全部食べるの……?
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