第57話 襲撃
「で、出来た……?」
あまりの疲労感にその場に座り込んでしまった。目の前のウルーはさらさらと砂が崩れるように消え去った。
私の手に乗る真っ赤な魔石。それは美しく綺麗な真紅の色で輝いていたが、中心部分では濃い色をして歪に蠢く渦が見えた。
「なんとか出来たな」
ダラスさんは近付いて来ると、座り込んだ私の頭にポンと手を置いた。
「やったな、お嬢ちゃん!」
「おめでとう! 一発で成功させるなんて凄いね!」
ゲイナーさんとシスバさんもこちらに向かい歩きながら、笑顔で祝ってくれた。
「あ、ありがとうございます……つ、疲れました……」
魔力練り上げの精製魔石も初めの頃は酷く疲れた。それと同じくらいの疲労感の上、さらには精製魔石とはまた違う緊張感に集中力が余計に疲れを感じさせる。
ゲイナーさんもシスバさんもアハハと笑いながら、二人もダラスさん同様に頭を撫でたり、背中を摩ったりと労ってくれた。
そうやってホッと一息ついていたのも束の間、ゲイナーさんの表情が変わり、勢いよく立ち上がった。そして周りを見回す。
「ど、どうかしたんですか?」
「しっ」
シスバさんとダラスさんも周りの様子を伺う。
「お嬢ちゃん、走れるか?」
「え?」
シスバさんが私の腕を掴み、立ち上がるように促す。そして私を庇いながらじりじりと後退りながら動く。
「木陰に走れ!!!!」
ゲイナーさんがそう叫んだ瞬間、先程のウルーのときに使ったのと同じ煙玉を投げ走り出した。
私はシスバさんに引っ張られながら走る。振り向くと二匹のウルーの姿が見えた。
「!?」
「やはり仲間がいたようだ!! 煙玉で嗅覚は鈍る! 木々の合間を縫って距離を取れ!!」
ウルー二匹は辺り一面に広がった煙に戸惑い、顔を振っていたがそれでも視覚でこちらを認識したのか、真っ直ぐに向かって来る。
シスバさんは私をダラスさんに託し、方向転換して走る。ゲイナーさんも離れた場所を走っている。
ダラスさんは私の腕を引き、木々の合間を縫いながら走る。息が切れる。二匹も同時に攻撃されたら大丈夫なの!? ゲイナーさんとシスバさんは!? チラリと横を向くがどこにいるのか分からない。
そのとき背後から風圧を感じた。振り向くと先程と同様に噴煙に炎が燃え広がり、ウルー二匹を囲んでいた。
遠目にシスバさんが見えた。杖を翳し、炎を放出している。二匹は足止めされ、戸惑っていたが大きく跳躍すると、シスバさん目掛けて襲い掛かろうとしていた。
シスバさんは炎の放出を止めると、目の前に迫るウルー二匹に向かい手を翳した。氷弾を撃ち込むが避けられる。ウルー二匹がシスバさんに迫ろうという瞬間、ゲイナーさんが斬り込んだ。
真横から現れたゲイナーさんの剣が一匹の首を掠める。その怯んだ隙にさらに切っ先は振り下ろされ胴体を斬った。ウルーは痛みからか激しく暴れる。
もう一匹はシスバさんに襲い掛かる。シスバさんは鞄から何かを取り出すと、目前に迫るウルーに向かって投げ、それ目掛けて炎弾を撃ち込んだ。
するとその投げたものはウルーの目の前で大きく爆発し、顔面をやられたのかウルーは目を瞑り頭を振った。
その隙にシスバさんは両手を大きく構え、なにかを放つ。それは一本の鋭い氷の矢となってウルーの身体を貫いた。
ゲイナーさんは暴れるウルーに向かい、大きく跳躍したかと思うと真上から胴体を貫き、そしてウルーは息絶えた。
二匹はその場で息絶え、ゲイナーさんとシスバさんはさすがに疲れたのか、その場に座り込んだ。
「あー、ちょいとしんどかったな」
「ハハハ……だね……」
ダラスさんと二人で安堵の息を漏らし、二人の傍へと駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「おう、お嬢ちゃんも大丈夫だったか?」
「わ、私は大丈夫です。お二人は怪我とかは!?」
「アハハ、心配してくれてんのか、なんとか大丈夫だから心配すんな!」
ゲイナーさんは笑いながら水を飲んでいた。
シスバさんも頷き優しい顔で「大丈夫」と答えてくれた。
「良かったぁ」
力が抜けて、私までもがその場に座り込んでしまった。
「お嬢ちゃんの初陣にしては、ちょっと怖かったか? まあでも二匹くらいならなんとかなるから心配すんな! 三匹いたらヤバかったかもしれんがなぁ!」
そう言いながらガハハと笑うゲイナーさん。
「初めてで二匹同時は怖かったよね。でも本当にゲイナーさんも僕も二匹くらいならなんとかなるからさ」
シスバさんも水を飲みながら笑顔で言ってくれる。
ダラスさんは……落ち着いてるわね……。そういえば通信用魔導具も使ってなかったしね……やはり心配はいらなかったってことか。でも怖かったぁ……。ちょっと泣きそう。
目の前に倒れているウルー二匹。
「魔石を採取する余裕はなかったですね……」
「まあそういうこともある。仕方ない」
ダラスさんは淡々としている。
「そういえば魔石を採取しない魔獣は倒した後、消えたりしないんですね」
魔石を採取したときは砂のように消え去ってしまっていた魔獣の遺体。今目の前にあるウルー二匹の遺体はそのまま姿を残している。
「魔石を採取すると、魔素や魔力を抜き取ってしまうからか、ああやって消え去ってしまうが、魔石の採取をしない場合は、そのまま朽ちていくだけだな」
「へぇ、そうなんですね」
「魔獣や魔蟲は倒した後、素材として使えたりもするから、魔石採取じゃないのなら解体したりもするんだが……今日はルーサもいるしな。早めに撤収しよう。遺体の臭いで他の奴に気付かれる」
ゲイナーさんが真面目な顔で言った。
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