第58話 魔石採取の独り立ち
「そうだな」
ゲイナーさんの提案にダラスさんも了承し、今日の採取は終了となった。少し残念にも思ったが、初日から何個も採取出来る訳ではない。ダラスさんが採取したにしても精々三個で限界らしいので、私がこのまま頑張っても無理な訳で、大人しく諦めました。
帰りは他の魔獣たちに見付からないよう注意を払いながら、森の入り口へと戻った。途中見掛けた魔蟲や普通の獣やらの説明をダラスさんやゲイナーさん、シスバさんに聞きながら、今後採取するときの注意点なども教えてもらったりと、勉強しつつの帰還となった。
森の入り口では騎士が安堵の表情で出迎えてくれ、挨拶をし森を後にする。
「今後も採取のときは手伝うから、声かけてくれよな!」
「うん、僕もね。ルーサちゃんの成長を楽しみにしてるよ」
王都へ戻り、二人はにこやかにそう言ってくれた。ダラスさんは二人と握手を交わし、二人にお礼を言い別れた。
「おかえり!」
店へと戻るとリラーナはカウンターから飛び出して、思い切り私を抱き締め笑顔を見せてくれた。
「ただいま、リラーナ」
「どうだった!? 大丈夫だった!? 怪我とかしてない!? 魔石は!?」
矢継ぎ早に問われ、なにから答えたら良いのか苦笑していると、ダラスさんがリラーナの頭をビシッと叩いた。
「痛っ」
「身体を休めるのが先だ」
「あ、ご、ごめん、ルーサ! お風呂! 先にお風呂行ってきなよ! 夕食のときにでも色々聞かせて!」
慌ててリラーナがそう言う。その姿がおかしくてクスッと笑ってしまった。ダラスさんはやれやれと言った顔でそのまま作業場へと荷物を置きに行った。
「フフ、リラーナ、ありがとう。先にお風呂入らせてもらうね」
「うんうん、しっかり温まっておいで。夕食準備しておくからゆっくりね」
店ももう閉店準備に入るから、とリラーナは店の看板を片付けに行った。
作業場へと荷物を置きに入ると、ダラスさんは今日採取した魔石を作業台に置いていた。私も同様に今日採取した魔石を並べてみる。
ダラスさんの黄色い魔石と私の赤い魔石。大きさはダラスさんの黄色い魔石のほうが少し大きい。相変わらず魔石の中心は歪な渦が蠢いている。
不思議だわぁ、とじーっと見詰めていると、ダラスさんに頭を小突かれた。
「早く片付けて風呂へ行って来い。魔石なんかいつでも見られる」
「はーい」
危うくまた長々見詰めているところだった。四年も経つとダラスさんも私の扱いに慣れたようで、無駄に魔石を眺めていると容赦なく突っ込まれるようになった。アハハ。
荷物を部屋へと片付け、着替えを持つとお風呂へと向かう。初めての森、初めての魔獣や魔蟲との対峙と恐怖、あれだけ走り回ったりしたのも初めてだし、なにもかもが新鮮だった。そしてやはり緊張していたのもあるのか、湯舟に浸かったときに一気に疲労感がやってきた。思わずうたた寝してしまいそうだわ。危うく溺れるところで目が覚めた……。
着替えを終え、キッチンへと向かうと、すでにリラーナが夕食の準備をしてくれていた。
テーブルに着き、夕食をいただきながら、今日あったことをリラーナに話す。リラーナは嬉しそうににこにこ聞いてくれ、二匹の魔獣が襲って来た話には顔を強張らせて聞いていた。
その後何度となく特殊魔石の採取に行くことになり、最初のうちはダラスさんがいるときにしか行けなかったため、採取に行ける頻度は少なく、しかし一年ほど経ち、次第に慣れてくると、ダラスさんから独り立ちの許可が出た!
「という訳で、仲介屋に行って来ます!」
「……気を付けろ」
「はい!」
ダラスさんは溜め息を吐きながら「仕方ないな」という顔。リラーナも心配してくれているが、いつまでもダラスさんと一緒という訳にもいかないのは事実だしね。二人とも心配しながらも渋々認めてくれたといった感じ。家族のように心配してくれる大事な人たち。それはやはり嬉しい。でも私だって独り立ちしないとね!
「ルーサ、『あれ』は持った?」
店の扉を開け、外へと出ようとしたところで思い出したかのようにリラーナが慌てて言った。
「うん、なにかあったら使ってみるね!」
「気を付けてね」
了解の意味で親指をぐっと突き出すと、そんなやり取りを見ていたダラスさんが溜め息を吐いた。
「お前ら、またなにか変なものを作っているんじゃないだろうな」
じろりとリラーナと私を見たダラスさん。一瞬目が泳ぐ。
「じ、実験よ、実験! アハハハ……」
リラーナは笑って誤魔化し、私に手を振った。私も笑いながら逃げるように店を出た。
「ふー、やれやれ。また怒られるところだった」
先程ダラスさんに怒られそうになった原因。最近リラーナと魔導具開発しているのよね。
私が精製した魔石にウィスさんに魔力付与してもらい、リラーナの魔導具に埋め込む。今までないような魔導具を二人で考え、使用実験を行っては失敗し、ダラスさんに怒られている。
私が精製する魔石はまだ販売出来る許可がない。リラーナはと言うと、もうロンさんの店での修行も終えて、個人で魔導具を作って販売をしている。ロンさんのお店に置いてもらったり、ダラスさんの店でも受注をし、注文を受けて作ったり、と、もうれっきとした魔導具師だ。
リラーナは今までにないような魔導具を作りたい、と言って、私に一緒に作らないかと提案してきた。
そこで私も魔導具開発を一緒にすることになり、未発表な魔導具のため私の魔石も実験がてら使ってみようとなったのだ。お金にもならない魔力付与をウィスさんにお願いをしたときには、「仕方ないな」と苦笑しつつも、何度か付与をしてくれた。
いつか二人でお店を持つためにも魔力付与を手伝ってくれる専属魔導師を探したいわね、とリラーナと二人で笑い合っていた。
そんななか最近作製した魔導具を今日は一人で出歩くために持ち出してみたのだ。実験したときにはそこそこ安定していたからきっと使える……と思う。
うんうん、と自分に言い聞かせるように頷く。
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