第55話 普通の獣と魔獣の違い
「見てみろ」
ダラスさんが差し出した魔石は精製魔石よりも圧倒的に大きく、ダラスさんの掌いっぱいの大きさだった。黄色い魔石は、中心部分は濃い黄色で魔素と魔力が蠢くように渦巻いている。精製魔石と少し違うのはその渦巻いているものが、なにやら歪な渦。
「これって不安定なんですか? 渦が歪のような気がするんですが……」
「ふむ、気付いたか。歪なのはそれだけ特殊魔石のほうが力が強いからだ」
「力が強いから……」
「意思がある訳ではないのだろうが、特殊魔石は魔獣や魔蟲の血や体液から出来ているだろう? どうもそれが反応するらしくてな。魔石精製師の魔力に反抗するかのように歪な動きをする」
「そうなんですね……不思議……」
そこに意思を感じるようなそんな不思議さに、その歪な渦に見入ってしまった。
「さあ、次はお嬢ちゃんの番だな!」
ゲイナーさんからそう言われビクッとなる。わ、私の番……上手く出来るかしら……。
「緊張するな。魔力操作自体は精製魔石と同じだ。手から放出するように結晶化の魔力を意識するだけだ。ただ……」
「ただ……?」
「精製魔石よりも遥かにこちらの魔力を使う。精製魔石なら一日に十個ほど創れるような奴でも、特殊魔石なら精々三個ほど採取出来たら良いほうだな」
「そ、それはどうして?」
「血や体液の結晶化は、先程『反抗』と例えて言ったように、結晶化の魔力を送っていると抵抗感が強い。それを無理に引っ張り上げ、結晶化していくんだ。それだけ魔力の消費が激しくなる」
「な、なるほど……」
「まあやってみれば分かる」
そう言われ、再び魔獣や魔蟲を探すため、四人で歩き出す。
普通の虫や動物に何度か遭遇するが、しばらく魔獣も魔蟲も現れない。今の間に昼食にしてしまおう、ということで、少し開けた場所で腰を下ろし携帯食を食べた。ダラスさんが購入していた分を二人で配分し、リュックに詰め持って来ていた。
持ち運ぶのに軽く、そして栄養価も高い携帯食。日持ちも良いものだから、普段の料理に使う人もいると聞いた。
棒状になった携帯食は齧って食べて行くのだが、噛み応えもあり、噛めば噛むほど旨味が出て来る。野菜や肉の味がし、とても美味しい。普段の料理に使えるなら皆、携帯食を使えば良いのでは、と思ったが、リラーナに聞くと、普段使いにするには高過ぎるのだそうだ。
食事を終え、再び捜索を開始する。そしてしばらく歩くと、ゲイナーさんがまたしても「しっ」と呟き、手で動きを制した。皆が息を潜めると、ゲイナーさんがしゃがみ込む。
「ウルーの足跡だ」
「ウルー?」
ゲイナーさんが指差すところを見ると、地面になにかの足跡がある。獣の足跡だとはすぐに分かる。しかし普通の獣とは違うように見える。なぜなら明らかにその足跡が大きいからだ。この足跡からすると身体も普通の獣よりは大きい気がする。
「ウルーは狼の魔獣だな。普通の狼よりも少し大きいくらいの奴だな」
魔獣も魔蟲も、魔魚もだが、本来普通の獣も虫も魚もいる。『魔』と付くものはそれらの普通の獣たちとは異なる。見た目からして明らかに巨大化していたり、異形化していたりで普通とは違うことは一目瞭然なのだが、普通と異なる明確なもの、それは『魔力』だ。
魔素は人間と同じように全ての生き物は体内に魔素を持つ、そこから魔力が生まれているのも同じだが、魔獣、魔蟲、魔魚はそこから体外に魔力を放出する。
人間で言うと魔法となる訳だが、魔獣たちもそれと同様のことが出来る。炎を吐くもの、毒素を吐くもの、吹雪を吐き出したり雷撃を撃ち出すものもいるそうだ。普通の獣は、魔力はあれど体外に放出が出来ない。それが明確な違い。
なぜ普通の獣と魔獣とがいるのかはよく分かっていないらしい。普通の獣がなんらかの理由で魔獣になるのかもしれない。それとも魔獣は魔獣としてしか生まれないのかもしれない。
いまだに「そうかもしれない」程度のことしか研究が進んでいないのだそうだ。
「ウルーは素早い奴だから、少し苦労するかもしれんがどうする?」
ゲイナーさんがダラスさんに聞いた。
「可能そうなら頼む」
「分かった」
ゲイナーさんは静かに立ち上がり、周りの様子を伺った。足音を立てないよう静かに移動していく。少し先の木の陰までやってくると、無言のまま前方に指差し合図を送った。
全員がそれぞれ木陰に入り様子を伺うと、一匹のウルーと呼ばれる魔獣がいた。
漆黒の毛並みが艶やかに光り、金色の瞳がキラリと鋭い視線を放っている。ウルーはなにやら地面をフンフンと匂いを嗅いだり、頭を持ち上げ周りの様子を伺ったりと、なにやら警戒しているようだった。
「これは、俺たちが森へ入ったことを知っていて警戒してんのかもな」
ゲイナーさんがウルーに気付かれないように小さく言った。
「さて、どう攻撃してやるか……」
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