第54話 倒した瞬間である理由

「よし、そのまま魔素と魔力を追え! ゲイナー、シスバ、頼む!」


「「了解!」」


 ダラスさんに言われた通り、私はひたすら魔素と魔力の感知を続ける。ゲイナーさんとシスバさんはダイパズが後ろを向いた瞬間飛び出し、攻撃を仕掛けた。


 シスバさんが杖を翳し、魔力を込めると炎弾が勢い良く飛び出す。ダイパズの身体に命中すると、炎はダイパズの身体に燃え広がった。突然現れた炎に驚いたのか、炎を振り払うかのように後退りながら暴れる。

 逃げられないよう、シスバさんはさらにダイパズの足元に炎弾を撃ち込んでいく。動きが止まったダイパズ目掛けてゲイナーさんが長剣を振りかぶり駆け込んだ。


「うおぉぉ!!」


 ゲイナーさんが駆け寄るのに気付いたのか、ダイパズは脚を大きく振り上げ立ち上がるかのように仰け反ると、思い切り脚を振り下ろしてくる。


 ゲイナーさんは大きく剣を振り、振り下ろされた脚を薙ぎ払う。ダイパズは姿勢を崩すと、目の前に敵が現れたことに気付き、大きく口のようなものを開け、なにかを吐き出した。ゲイナーさんはそれを避けると、液体のようなそれは「ジュッ」と音を立て地面の色を変えた。


「ど、毒!?」


「あぁ、ダイパズは毒素を吐き出す。あれを受けると人間は火傷のように皮膚が爛れる」

「…………」


 こ、怖過ぎるんですけど!!


 で、でも二人とも大して驚きもせず戦っている……す、凄いな。



 ゲイナーさんは勢い良く剣を横へと振り切ると、一本の脚が切り落とされ、ダイパズは激しく鳴き声のような音を上げさらに激しく暴れ出した。


『ギィィィィイイイイッ!!』


 耳を刺すような甲高い音に思わず耳を塞ぐ。ダイパズは痛みからなのか激しく残りの脚を振り回す。切れた脚からは黄色い体液が流れ出している。


「あの体液の魔素と魔力はどうなってる?」


 目線は外さないままダラスさんが話す。


「体液の魔素と魔力……」


 体内にある魔素と魔力をずっと追っていたが、体内で渦巻く魔力は身体の隅々まで行き渡り、先程の毒素にも魔力は含まれていた。体液も同様で魔力が含まれてはいるが、毒素も体液も体外に出た瞬間、魔力は消えていった。


「消えてしまいました……」


 ダラスさんは頷き、言葉を続ける。


「魔獣や魔蟲の血や体液からの魔石は、魔素や魔力が完全に消えてしまってからではもう結晶化することは出来ない。死んだ瞬間に魔素の核も消滅していき腐敗していく。だから死んだ瞬間、魔素や魔力が消え去る前に結晶化させるんだ」

「は、はい」



 ゲイナーさんとシスバさんの戦闘を見守る。倒した瞬間を見逃さないようダラスさんは目を離さない。


 シスバさんが手を前に突き出し、魔力を手に込める。氷弾が飛び出し、ダイパズの脚を凍らせた。動きが鈍くなったダイパズ目掛けて、ゲイナーさんがさらに脚を切り落とし、前のめりに倒れたダイパズの身体に手を掛け、背中に飛び乗ると雄叫びを上げ、背中から長剣を突き刺した。


「うおぉぉぉおおお!!」

『ギィィィイイイィィイイ!!』


 暴れまわるダイパズの背中に剣を突き刺したまま、さらに一層ズブズブと剣を突き刺していく。ダイパズは必死に抵抗していたが、次第に力尽き動かなくなった。


 ゲイナーさんは突き刺していた剣を勢い良く引き抜くと、「ブシュッ」と音を立て体液が噴き出した。

 それを見たダラスさんは飛び出し、両手をダイパズのほうへと翳す。そして目を瞑り集中し出した。


 ダイパズの体液からは魔力が流れ出、魔素も渦巻いていた動きを止めようとしていた。ダラスさんの手からは結晶化の魔力が込められているのを感じる。その魔力に反応するかのように、ダイパズの体液はまるで川が流れるかの如く空中に渦巻き出す。体内の全ての魔素と魔力を吸い取るかのように流れる体液と共にダラスさんの目の前まで流れて来た。


 目の前には水魔法を操っているかのように、ダラスさんの手に集まる体液。ダラスさんの目の前で渦巻き、徐々に圧縮され小さく丸く集まっていく。そしてそれは魔力練り上げの魔石のときのように、しかしそれよりも遥かに大きい魔石となって固まった。


 体液が抜けたダイパズはまるで砂のように粉々に崩れ消え去った。


「完了だな」


 ゲイナーさんとシスバさんはお互い手を突き出し、パチンと音を立て、手を合わせていた。ゲイナーさんは剣に付いていた体液を振り払うと鞘に収めた。体液は振り払われたと同時にさらさらと砂のように消え去った。


「いつ見ても圧巻だな」


「うん、綺麗だ」


 ゲイナーさんもシスバさんも感嘆の声を上げる。先程のダラスさんが行った、体液からの魔石結晶化のことだろう。初めて見る私も、ただただ綺麗で見惚れていた。流れる川のように空中を舞い集まる体液。『体液』と言ってしまうと気持ち悪い気もするが、それ以上に綺麗だった。

 結晶化の魔力と混ざり合っているからか、なんだかキラキラと輝いているようにも見えた。太陽の光を浴びて、そう輝いて見えただけなのかもしれないが、それでもやはり煌めく川の流れのように綺麗だな、という感想しか出なかった。


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