第53話 魔蟲との対峙
「さっき入り口でダラスさんが見せていたものと、騎士さんから受け取っていたものはなんですか?」
ダラスさんは首から下げていたペンダントのようなものを見せてくれた。
「国家魔石精製師になると、国から証明タグが配られる。所謂身分証だな」
ペンダントトップの金属は四角いプレートになっていて、字が彫ってあった。
『国家魔石精製師、ダラス、王都01』
「この番号はなんですか?」
「王都で店を出していて、その店番号だ。名前の後ろには店を出した場合、街の名前と店番号が振り分けられる。それを国が管理しているんだ」
「なるほど。騎士さんから渡されたものは?」
証明タグをダラスさんに返し、再び聞いた。
「これは通信用の魔導具だ」
騎士さんに渡されものを見せてくれる。ダラスさんの掌に乗せられた魔導具は銀色の腕輪のようなものだった。
「腕に装着出来るように腕輪型になっている。内側に魔石が埋め込まれているから、常に身体に触れた状態で、魔力を少し流すだけで発動するように出来ている。魔力を流すと騎士が持っている魔導具のほうに声を届けられるんだ」
ダラスさんは自身の腕に装着して見せてくれた。
「ついでに感知してみろ。なんの魔力付与が行われているか分かるか」
魔力感知……言われるがままに腕輪型魔導具に意識を集中させる。小さい魔石を感じる。この感じは……天然魔石かしら。そして魔力は……
「風系の魔力ですかね? 天然魔石の」
「正解だ。もう感知は完璧になったな」
そう言ってダラスさんは私の頭にポンと手を置いた。
「スゲーな、お嬢ちゃん、さすが魔石精製師だな!」
「本当に凄いなぁ。魔導師は魔力感知は出来たにしても、魔石内部の魔力までは感知出来ないしねぇ。しかも石を見ずに天然魔石か分かるなんてね」
ゲイナーさんとシスバさんは物凄く驚いた顔で大袈裟なくらいに褒めてくれる。今まで修行してきたことは無駄じゃなかったのね、と、なんだか嬉し恥ずかしい気分。
そしてダラスさんからもらった方位計。それを取り出し現在地を確認するように言われる。森の入り口に向かって立つと方位計は東を指している。
「森や洞窟、どこへ入ったにしてもまず入り口、最初の場所の方角を確かめておけ。そうすれば迷うことはない」
「はい」
特殊魔石の採取には必ず必要となる方位計。あのときダラスさんが私専用を贈ってくれたことが懐かしく、改めて嬉しくなった。
「この森のように見張りがいるところは、危険を察知すると助けに来てもらえるから安全だが、王都や街から離れた森とかになってくると見張りはいない。自分たちで気を付けるしかない。その覚悟はしておけ」
ダラスさんは真面目な顔で言った。自分一人で採取するようになったら、きっとそういう危険なところも行くことになったりするんだろうな、と怖くもなるが、怖がっていたらきっと国家魔石精製師にはなれないだろう。
「はい!」
気を付けながら頑張ろう、そう気合を入れた。
しばらく森のなかを進むと、ゲイナーさんが「しっ」と片手を挙げ、足を止めた。大きく茂る草木に身を隠しながら、そっと前方を覗き見る。
「ダイパズがいる」
「ダイパズ?」
「魔蟲だね。巨大な蜘蛛みたいな奴だよ」
「く、蜘蛛ですか……」
巨大な、と付くこところが恐怖を覚える……。ゲイナーさん達のように、息を殺しそっと覗き見ると、真っ黒な身体に深紅の色が柄のように入り、長く伸びた脚が八本、丸く大きなお腹はまるで風船のよう。顔と思われるところには大きな黒い目が怪しく光っている。
大人の背丈ほどの高さのある身体が普通の虫ではないことを物語っていた。
ゲイナーさんは腰に下げた長剣を静かに鞘から抜き、シスバさんも杖を構える。
「どうする?」
ゲイナーさんはチラリとダラスさんに視線を送って聞いた。
「頼む。でも少し待ってくれ」
ダラスさんはゲイナーさんとシスバさんに頷いて見せ、そして私に振り返ると呟いた。
「あのダイパズって魔蟲の体内の魔素を感知してみろ」
「魔素ですか?」
「あぁ、魔物にしろ、魔獣にしろ、なんでも必ず魔素の核を持つ。そしてそこから魔力を生み出しているのは同じ。特殊魔石は倒した瞬間に流れ出る血や体液に混ざりながら、魔獣たちの魔素と魔力が流れ出る。それを結晶化の魔力と共に練り上げ結晶化させるんだ」
「わ、分かりました」
ゲイナーさん達が注意しながら見守るなか、ダイパズの体内に集中する。巨大な蜘蛛が脚を動かしながら、獲物を探すかのように蠢いているのが怖くて仕方がない。集中出来ない……。
「大丈夫」
血の気が引いていることに気付かれたのか、シスバさんが私の背にそっと手を置いた。
「ダイパズは巨大だけれど、周りの気配には鈍感だから心配しなくても大丈夫だよ。それに僕たちはもう何度も倒している相手だからね。安心して」
「は、はい。ありがとうございます」
ゲイナーさんもニッと笑って見せた。
よ、よし。集中よ。大丈夫。二人が傍にいるんだから大丈夫。
改めてダイパズの体内に神経を集中させていく。巨大な身体の奥深くを探るように、神経の糸を張り巡らせていく。広範囲じゃなくていい。ダイパズだけでいいのよ。目の前にいるダイパズを包囲するように神経の糸を張り巡らせる。
ダイパズの体内、巨大な丸い風船のようなお腹。その中心辺りに魔素の渦を感じた。そこから渦は大きく広がり魔力を生み出し、ダイパズの体内を駆け巡っている。
「感じました!」
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