第45話 見知らぬ男
夕方近くということで王都の街は買い物客で賑わっていた。ロンさんの店にももう何度かお使いに出向いている。
あのときから……神託を受け、両親と別れ、ダラスさんの元で修行を始めてからもう一年以上の月日が経った。両親の行方は未だに分からない。でも私は毎日の修行に必死になっていると、どうしても両親のことを思い出さない日も出てくるようになった。
薄情な娘だな……あんなに別れることを嫌がったのに、今じゃもう思い出すことのほうが少ないかもしれない。それだけ毎日が充実しているのかもしれないけれど……。ふとしたときに私はなんて薄情なんだろうと自己嫌悪に陥ることがある。
こうやって一人でお使いに出ているときには、街並みや人の賑わいに楽しくもなりつつ、一人でいることに寂しさを覚えることもある。そんなときにはいつも両親を思い出す。
そんなときにしか思い出さない娘をお父様とお母様はどう思うかしら。
「お父様……お母様……」
ぼんやりと空を見上げ溜め息を吐いた。
「早く一人前にならないとね……」
ロンさんの店へとたどり着くと、扉を開けなかへと入る。カランコロンと扉に付いたベルが鳴る。その音と共にロンさんが店の奥から姿を現した。
「いらっしゃい、ってルーサか」
「こんにちは」
私の姿を目にすると、ニッと笑ったロンさん。
「あぁ、ダラスの注文していたやつだな。出来てるぞ。ちょっと待ってろ」
そう言って再び店の奥へと入っていったロンさんを待っている間、店の商品を見学させてもらう。あれこれと様々なものが置いてあるが、たまになんだこれ、というものがあり思わず触りたくなるけれど、壊しそうだから我慢。
しばらくするとロンさんが小さな四角い箱のようなものを持って戻って来た。
「ほれ、これだ」
私の手よりも少し大きい箱。
「この箱が魔導具ですか?」
「いやいや、その箱のなかに入ってる」
「聞いても良いのかな、なんですかこれ?」
「んー、まあ帰ってダラスに渡してから聞いたほうが良いんじゃないか?」
「え、聞いちゃ駄目なやつ?」
「いや、そんなことはないが……いや、やっぱりダラスに聞け! 多分!」
「多分?」
なにその歯切れの悪さ。
「なんだかよく分かりませんが、じゃあダラスさんに聞きます」
「ハハ、そんな拗ねるな。ダラスによろしくな」
豪快にワシワシと頭を撫でられ髪がぐちゃぐちゃに……。ちょっと拗ねて見せたが、そんなロンさんにおかしくなり、ぐちゃぐちゃになった髪を整えながら「もう!」と怒ったふりをして二人で笑い合った。
代金を渡し、お礼を言い、店を出ようとするとロンさんに呼び止められた。
「あ、そういえば!」
扉に手を掛けていたままの姿勢で振り向いた。
「少し前にな、「魔石精製師の女の子を知らないか」と尋ねてくる奴がいたんだ」
「え? 魔石精製師の……?」
「この辺りでは見かけない奴だったから、なんか胡散臭いと思ってな、知らんと言っておいたが……注意するに越したことはないからな、気を付けろよ」
「は、はい。ありがとうございます」
ロンさんは少し心配そうだったが、手を振り笑顔で店を出た。
一体なにかしら……魔石精製師の女の子って……私のこと? いや、でも他にもいるかもしれないしね……。少し気になるけど……だからといって何か出来る訳でもないし、まあいいか。
少し気を付けながらも、せっかくだし、と少し街をぶらぶらと歩く。持って来たお小遣いでジュースを買う。こういった買い物もすっかり慣れたものだ。ジュースを片手にぶらぶらと歩いていると、久しぶりに聞く声がした。
『おい、誰かにつけられているぞ』
「え!?」
突然の声に驚いたが、今のは明らかにルギニアス!
「え? え? ルギニアス? どこ?」
キョロキョロと周りを見回しても姿は見えない。
『キョロキョロするな。商業区から早く出ろ。大通りに行け』
「え? なに?」
言われるがまま少し早足で商業区を抜けて行く。つけられているってどういうこと? なんで私が? ルギニアスはどこ?
商業区から抜けるため、建物の角を曲がろうとしたそのとき、背後から誰かに腕を掴まれ、グイッと後ろに引っ張られる。
「!?」
慌てて振り向くと、フードを目深に被り、顔が全く分からない男に腕を掴まれていた。男だとはっきりとは分からないが、体格からして男なのだろうと思えるほど、その人は屈強な身体つきだった。
!! な、なに!? 怖い!!
「だ、誰!?」
必死に声を絞り出す。
男はなにも言わず、私の腕を掴んだ手とは逆の手で、なにやら腰に手を伸ばした。そしてその手が戻る動作のなか見えてきたものは……キラリと光るもの……。
「大人しくしろ」
「い、嫌!! 離して!!」
必死に暴れるが男の掴む腕は外れない。男は腰の位置から手を持ち上げていくと、その手にはナイフが……
「走れ!!!!」
目の前にポンと飛び出て来たルギニアス!!
ルギニアスは宙に浮き、男に向かって手を伸ばすと火花を散らした。『ボンッ』と爆ぜたそれはそれほど大きいものではなかったが、しかし男はその火花に一瞬怯み、手の力が弱まった。
「ちっ、この身体じゃこの程度か! 行け!!」
ルギニアスが叫んだ瞬間、私は強張った身体を必死に動かし走り出した。
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