第44話 魔素と魔力の関係性

 ダラスさんは大きく深呼吸をするとそっと目を開いた。


「これで完成だ」


 ダラスさんの掌に乗せられた魔石を手に取り、じっくりと眺める。

 赤い魔石はろ過蒸留の精製魔石、天然魔石とも違う、不思議な魔力を感じた。中心では魔力渦がいまだに渦巻いているように見える。濃い魔力が中心に生きているように渦巻く。


「魔石精製師が創り上げた魔素に結晶化の魔力と魔力付与対応の魔力を編み込んでいくようなイメージだな」

「編み込んでいく?」

「魔素とは練り上げていくというよりも、先程の組式を組み込んでいく……だから糸を編み込んでいくようなそんなイメージだ」

「…………」


 分かるような分からないような……む、難しいわね……。


「とりあえずろ過蒸留の精製魔石と同じだけの種類を精製出来るようになることだ」

「うっ……はい……」


 一難去ってまた一難……じゃないけれど、あの数を精製していくのかぁ……ちーん。




 教えてもらった通りに体内で魔素を……魔素を……う、うう、うううん。魔素……魔素ってなに!? いや、魔素よ……あれよ、あれ。天然魔石の採掘場を思い出すのよ!

 うぐぐぐ……思い出せ……思い出せ……それを体内で創り出すのよ……頑張れ私!


 感知の記憶。身体全体から神経の糸を出すように感知した魔素と魔力。あれを頭のなかに思い出していく。ゆっくりと……ゆっくりと。


 次第にあのときの記憶が蘇ってきたかと思うと、身体の奥深くでチリッと熱のようなものを感じる。意識が途切れないように必死にそれを繋ぎ止める。その熱にさらに意識を集中させていく。その熱が少しずつ大きく……


「そろそろお昼にするわよー」


 プツン。


「あぁぁぁぁぁあああ!!!!」


「え、な、なになに!?」


 作業場に顔を出したリラーナがビクッと身体を震わせ、怯えた。


 体内で生まれた熱はプツリと消えてなくなった……。バタッと作業台に突っ伏し項垂れる。


「ル、ルーサ、どうしたの!?」

「にゃんでもないぃぃ」


 グスッと若干涙目でリラーナを見ると、リラーナは焦ったように駆け寄ってきた。リラーナのせいじゃないしね……仕方ないしね……お腹も空くしね……ご飯嬉しい! アハハ…………はぁぁ。


 リラーナの頭の上には「????」といった文字が浮かんでいそうで、それが少しおかしかった。


「ごめん、本当になんでもない。集中が途切れちゃっただけ。お腹空いたぁ」

「な、なんかごめんね?」


 ダラスさんに呆れたような顔をされながら促され、リラーナと二人で昼食を取る。リラーナになんの作業をしていたかを話すと、お互いが謝り合い、そして苦笑し合うという変な時間となった。



 昼食を終えると再び挑戦!


 集中、集中よ! 先程感じた熱をもう一度! 意識を集中させ採掘場の魔素を思い出す。あれと同じものを……同じものを創り出す。チリッと身体の中心に熱を感じる。

 今度こそ、今度こそ……さらに集中していく。熱と思っていたものが少しずつ、本当に少しずつ大きくなっていく。


 こ、これをなくさないように……体内で維持! そして結晶化の魔力と魔力付与対応の魔力を……糸を編むようなイメージ? ううん……うん? うううん? 魔素と魔力を組み込んでいくというのは、思っていた以上に難しい。体内で魔素と魔力が組み合わさりそうな瞬間、「パンッ!!」と内部で破裂した。


「え……」


「どうした?」


 茫然としているとダラスさんが声を掛けてきた。


「魔素と魔力が組み合わせそうな感じだったんですけど……破裂しちゃいました……」


 がくりとしつつ説明をしていると、ダラスさんは「ふむ」と少し考え、私の頭にポンと手を置いた。


「おそらく組式のほうが上手く出来上がっていなかったんだろう」

「組式のほうが?」

「魔素に気を取られて、魔力付与対応の魔力が疎かになっていなかったか?」

「あ……」


 そういえばそうかもしれない。魔素を維持するのに意識を持って行き過ぎて、魔力を上手く創れていなかったかも……。


「あぁぁ、難しいですね……」

「慣れると簡単にはなってくるが、最初コツを掴むまでは苦労するかもな」

「うぅぅ」



 それから必死に集中を繰り返したけれど、なかなか成功することはなく、たった一つの精製魔石すら創れない。熱が出そう……。


 それを見兼ねてか、ダラスさんが夕方近くに再び声を掛けてきた。


「今日はこれくらいでやめておけ。魔力練り上げの魔石は慣れないと激しく消耗する。明日起きられなくなるぞ。それよりもロンから連絡が来たから、注文していたものを取りに行って来い」

「はーい……」


 疲れ切っていた私に気分転換させてくれようとしているんだろうなぁ。注文代金を渡され、ロンさんの店へとお使いに出た。


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