第46話 ヒーロー登場?

 ルギニアスは私の頭にしがみ付き、私は必死に走る。怖い……怖い……な、なんなの一体!?


「ル、ルーちゃん、あれ、なんなの!? なんで私が狙われてるの!?」

「……知らん。魔導具屋を出た辺りから付いて来ていたぞ」


 慌てて走り抜けて行ったため知らない道に迷い込んでしまった。


「あぁ、どうしよ……ここ、どこ……」


 闇雲に走ったところで大通りに出られるとも思えない。しかし足を止めるのが怖い。必死に走っていると勢い良くなにかにぶつかってしまった。


 ドンッ! とぶつかり後ろに弾き飛ばされた私は尻もちをつき、ルギニアスは私の頭から転がり落ちた。


「キャッ」

「痛ってー」


 ほぼ同時に正面から声が聞こえ、座り込んだまま私は目の前にそっと視線を移した。


 私の膝の上に転がるルギニアス、そして目の前には濃紺色の髪の、少し年上そうな男の子……?

 眉間に皺を寄せながら目を開けた少年はこちらを見た。その瞳は金色がキラキラと輝き綺麗で思わず見とれてしまった。


「なんだお前」


 その少年が口にした瞬間、目を見開き驚愕の顔になった。


「?」


 キョトンとその少年を見ていると、少年は急に片手を地面に付くと、両足を振り上げ回転させた。私の頭上を勢いよく通り抜けた少年の脚は『ドガッ』と音を立て、くるりと回転を終えて、足をつくと素早く立ち上がり私の腕を掴んだ。


「え!?」

「こっち!!」


 少年に無理矢理引っ張り上げられ立ち上がった私を、そのまま勢い良く引っ張り走り出す。引っ張られた勢いのまま身体が斜めになり、チラリと後ろが目に入る。

 そこには先程の男がいた!!


「!!」


 男は私の背後でナイフを振り上げていたようだ。少年の回し蹴りで腕が後ろに蹴り飛ばされ姿勢を崩していた。


「ちっ」


 男が忌々しいとばかりに小さく声を漏らしたのが聞こえる。


「お前、なんであんなのに襲われてんだ!?」


 少年は私の腕を引っ張りながら、勢い良く走り抜けて行く。その速さに付いて行くだけで必死の私は答える余裕もなく、荒い息をしながら必死に走る。


 少年は角を曲がり塀に囲まれた場所へとやって来た。男の姿が見えなくなった瞬間、その塀を蹴り上げ、片手で塀の縁を掴むと脚を振り上げた。羽でも生えているのかと思うほど、身軽な動きであっという間に塀の上へと乗り上げた。


「掴まれ」


 塀の上から私に手を伸ばす。荒い呼吸を整える余裕もなく、言われるがまま少年に手を伸ばすと、少年は勢い良く私を引っ張り上げた。そして塀の向こう側へと下ろしてくれる。


 そこはもう人通りの多い、街の大通りだった。


「さすがに大通りまではさっきの奴も追ってこないだろ」

「う、うん、あ、ありがとう……」


 ぜーぜーと息をしているのを見て少年は苦笑した。


「大丈夫か?」

「う、うん……で、でもちょっと休憩させて……」


 少年は人通りがありつつ、ベンチのあるところを探してくれ、そこに座って休憩をした。やっと落ち着いてきた私は大きく深呼吸をし、背凭れに倒れ込んだ。


「で、さっきの奴はなんなんだ?」


 少年は元気が有り余っているかのように、手すりを掴み逆立ちをしたりしている。す、凄い……さっきの動きといい、運動神経抜群なのね……。


「わ、分からないの……突然襲われて……私にもなにがなんだか……」


 突然命を狙われる意味が分からない。顔すら見えない相手に刃物を突き付けられゾッとする。


「ふーん? ま、いいか、無事だったんだし。今後気を付けたほうがいいぞ」

「え、えぇ。ありがとう、助けてくれて」

「いや別に……それよりも、それなんだ?」


 少年は私の横に腰を下ろすと、綺麗な金色の瞳をこちらに向けじっと見詰めた。


「え、な、なにが?」


 そんなじっと見詰められるとドキドキしてしまう!


「いや、お前の肩に乗ってるそれ」


 少年は私の肩を指差し、顔を近付けた。

 肩に乗ってるそれ……?


「はっ! ル、ルーちゃん!!」


 忘れてた!! がばっと肩に目をやるとジト目のルギニアスが私の肩に貼り付いていた。


「ルーちゃん?」

「あ、いや、えっと、その……」


 あわあわと少年とルギニアスを交互に見る。ルギニアスはジト目のまま、私の膝に降りて来た。い、いや、動かないでよ!! 慌ててむぎゅっとルギニアスを掴む。


「い、今動いたか!?」

「ち、違うよ!! 私の肩から滑り落ちただけ!!」


 思わずルギニアスを握り締める。


「ぐえぇっ……っだから握り締めるな!!」


 ルギニアスが暴れまくり訴えた。あぁぁ、終わった……。


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