第32話 魔石感知

「魔力感知ではなく、魔石感知ですか?」


 そう問いかけると、ダラスさんは岩肌に手を当て見上げた。


「あぁ。人工物ではないものには僅かながらも、みな魔素があり微弱な魔力を保有している。稀に強い魔力を保有しているものもある。さらにこの鉱山は魔石を創り出すほどの魔素の塊だ。そのなかから魔石を探し出すには魔力感知だけでは難しい。だから魔素と魔力、どちらをも感知し、魔石とその他のものを判別して見付けるんだ」


「おぉぉ……な、なんだか物凄く難しそうな……」


 聞いているだけでも難しそうな気がした……。


「とにかく一度この辺り一帯の魔力感知をしてみろ」

「はい」


 この辺り一帯の魔力感知……。精製魔石の魔力を感知したときのように意識を集中させる。しかし今度は魔石のような小さなものに対してではなく、この場一帯という広範囲。

 魔石のときは一点に意識を集中させたが、今は身体全体から魔力を感じるように集中する。身体全体からまるで蜘蛛の糸を伸ばすように神経の糸を張り巡らせていく。


 そうやって神経の糸を張り巡らせていくと、蜘蛛の糸に虫がかかったかのようにあちこちでなにやら違和感を感じる。ダラスさんとウルバさんの魔力とはまた違うもの。人とは違うものを感じる。しかしそれが魔石かどうか分からない。


「なにかあちこちに魔力らしきものは感じますが、それがなにかは分かりません」


「よし、ではそのままここを感知してみろ」


 そう言ってダラスさんは自分の手を当てた岩場を感知しろと促す。言われるがままに、今まで四方に向けていた意識を、ダラスさんの手元に集中させていく。


「?」


 そこには今まで感じたことのないような違和感を感じた。


 魔力? 魔力にしては今まで感知したような魔力と少し違うような……。んー、いや、魔力もあるのかしら……でもそれだけではないような……。

 精製魔石を感知したときのようで、そうでない、しかし似ている魔力を感じる。そしてそこにさらになにか違うものも感じる。チリチリとその場でなにかが蠢き揺らぎ、そしてそこから渦を巻くように広がり魔力となる。


「これ、魔素?」


 思わず口から小さく出た言葉は、自分でも無意識に発していたようだ。


「そうだ、魔石があるところには魔素が塊となり、そこから魔力が滲み出ているのが分かるはずだ」


 ダラスさんはそう言いながらウルバさんに掘り起こすのをお願いすると、その岩場からは綺麗な赤い魔石が姿を見せた。


「おぉ、魔石精製師さんはそうやって魔素と魔力感知で魔石を発見するのですね! 面白い!」


 そう言いながらウルバさんは丁寧に魔石を掘り起こしていく。


「いつもはダラスさんが無言で魔石を発見していき、指示された場所を僕が掘り起こす、という作業しかしないので、こうやって感知していくというのが分かって僕も勉強になりますよ」


 ウルバさんは明らかにウキウキとしながら楽しそうだ。


「広範囲を長く感知しているとすぐバテる。だから範囲を絞って感知していく。ゆっくりでいいからやってみろ。見付けたらウルバに言って、掘り起こしてもらえ」

「はい!」


 ダラスさんはそう指示だけだすと、自身の魔石感知を始めた。見ていると次々に発見していき、ウルバさんに指示を出している。凄いな……。私も頑張らないと!


 ダラスさんが感知している場所から少し離れ、邪魔にならないだろう岩場に立ちじっくりと感知していく。

 まずは目の前の岩場を、と感知していくが、範囲が狭すぎたのか全くなにも感じない。精々岩場自体の魔素らしきものを感じるだけだ。もう少し範囲を広げないと無理なのかしら、と、横や上に範囲を広げ感知していく。


「ううーん……」


 なかなか感知出来ない。先程ダラスさんに教えてもらった場所を感知したときは、明らかに周りの岩場とは違う魔素と魔力を感じた。だからすぐに分かったけれど、分かりにくい場合もあるのかしら。それともやっぱりこの範囲内には全くないのかしら。


 うんうん、と唸りながらあちこち探索してみてもやはり見付からない。


「な、なんで見付からないの~」


 ちょっぴり半泣きになりそうになっていると、ポンと飛び出たルギニアスが私の頭の上に乗っかった。


「ル、ルギニアス!? ど、ど、どうしたの!? ダラスさんたちに見付かっちゃうよ!? 良いの!?」


 慌てて頭の上のルギニアスを鷲掴みにし、目の前で小声で話した。


「く、苦しいから離せ……」


「あ、ごめん」


 思わず力一杯握り締めていたようで、ルギニアスが苦悶の表情を浮かべていた。


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