第31話 採掘場

「今日は採掘場へ行ってみるか」


 ひたすら精製魔石を練習しているある日、ダラスさんが言った。


「採掘場! 天然魔石の採れるところですよね!?」

「あぁ」

「行きたいです!」


 ダラスさんが天然魔石の採掘のために出向くとき、一緒に連れて行ってもらえることになった。


 採掘場は王都から北にあるジストラ鉱山にあるらしい。


 今回はリラーナにお留守番を頼み、ダラスさんと二人でジストラ鉱山まで。鉱山までは定期的に乗合馬車が出ている。

 今回ダラスさんは魔石を採掘してもらうために、いつも仕事を頼んでいるウルバさんという男の人にも同行を頼んだ。


「天然魔石は自分で採掘するんじゃないんですね」


 乗合馬車に乗り込み、道中揺られながらダラスさんに聞いた。


「あぁ。俺たちが採掘すると割ってしまったりするからな。採掘が得意な人間に頼むほうが早いし、綺麗な状態で手に入れられる」

「へぇ、そうなんですね」


「ハハ、今日はよろしくお願いしますね」


 ウルバさんはウィスさんと近い年のひとかしら。ダラスさんよりは年下のようだ。物腰柔らかな見た目で物静かそうな男の人。採掘なんかをしてそうには見えない。どちらかと言えば本でも読んで過ごしていそうな雰囲気。


 そう思っていたことがバレたのか、にこりと笑ったウルバさんは自分の仕事を教えてくれた。


「僕は魔力について研究している研究者なんです」

「研究者?」

「はい。主に専門は魔力についてですが、魔石や魔法も関連するのでよく採掘に同行させてもらっています」

「ウルバさんは魔導師さんなんですか?」

「そうですね、神託は魔導師でした。でも僕はどういう原理で魔法が発動されるのか、魔法の応用や魔導具としての活用方法などを研究したくて研究者になりました」

「へぇぇえ! そんなお仕事もあるんですね!」


 魔導師といえば魔法を使って戦ったり、治癒したり、魔石に付与を施したり、といったことしか知らなかった。活用するための研究をしている人がいるなんて。


「魔石を掘り起こす繊細な作業も得意ですよ」


 そう言いながらフフと笑ったウルバさん。


「でも魔石を発見出来るのはやはり魔石精製師さんじゃないと無理なんですよね」

「?」


 そんな話をしている間にどうやらジストラ鉱山に到着したようだ。乗合馬車が止まり、御者が降りる準備をしてくれる。馬車から降りると乗合馬車は再び王都へと戻るようだ。定期便となっているため、乗車時間になるとまたここまでやって来る。そうやって巡回している乗合馬車。



 ダラスさんとウルバさんと共にジストラ鉱山の魔石が採掘出来る場所まで移動する。あちこち岩だらけね、当たり前なんだろうけど。


 山といっても木々はなく、高い壁のように崖がそびえ立っている。切り開かれた崖は広く整地されてあり、何か所も洞窟のようなものが見える。


 その一か所の洞窟に向かって歩いて行くダラスさん。それにウルバさんと共に続く。

 洞窟入り口付近へ来ると、ダラスさんは鞄のなかから何かを取り出した。小さな魔導具のようだけれどなにかしら。


「それなんですか?」

「これか。これはこの洞窟に張られている結界解除の魔導具だな」

「結界解除?」

「あぁ。採掘場は見張りがいる訳でもないからな。誰もが簡単に入ることが出来ると、手当たり次第に荒らされるだろ。だから許可証を持った人間しか入ることが出来ないようになっている。国家魔石精製師の資格を持つものは採掘場の許可証と結界解除の魔導具も一緒に与えられるんだ」

「へぇぇえ」


 なんだかさっきから「へぇぇえ」しか言ってない気がする、とちょっと苦笑。知らないことだらけだわ。


「ちなみに僕も特別に許可証をいただいています」


 ウルバさんも研究という名目があるため、許可証をもらっているらしい。今回はダラスさんの許可証で通行。三人が通った後、再び見えない結界が張られているそうだ。中からは自由に出られるらしいのだけれど、外からは進入不可になる結界らしい。凄いわね。


 洞窟のなかは暗いため、魔導ランプに火を灯す。ひんやりと冷たく、しかし湿ったような空気。もっと暑いのかと思っていたけれど、そうでもないのね。

 しばらく細い道を歩き進むと、大きく開けた場所に出た。梯子が掛けられ、見上げると上のほうにまで足場があった。あちこちに足場が設置され、掘り起こされた跡がある。


「さて、ここでお前の魔石感知の訓練だ」

「え? 魔石感知?」


 魔力感知じゃなく、魔石感知?


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