第30話 初めての精製魔石
「よし、今日こそは成功させるわよ!」
そう意気込み、ゴリゴリと純魔石水を用意する。
ローグ伯爵領へ行った日からお父様とお母様の話は街でもあまり聞かなくなってきた。しばらくは街で聞き取り調査のようなこともしてみたけれど、お父様とお母様の足取りは一切分からなかった。そりゃそうよね……お父様たちは私と別れたあとは領地に戻っていたのだもの。
でもロダスタで聞いて回っても、誰もなにも知らなかった。使用人たちがいたらなにか話を聞けたかもしれないが、使用人たちはどこへ行ったのかも分からない。
ダラスさんもあれからなにも言わないし、街の噂も聞こえなくなってくると、調べても無駄だと言われているようで少し悲しくなる。ランガスタ公爵と会うことが出来れば、もしかしたらなにか知っているかもしれないが、公爵なんて人と会う機会があるはずもないし……。
ルギニアスの言う通り、今はとにかく修行するしかないんだろうな……。ちなみにルギニアスといえば、あれからまた姿を見せてくれない。夢じゃなかったのは嬉しかったけれど、結局ルギニアスってなんなんだろう……。
魔王とか言ってたけれど……そんなはずないだろうし……妖精? 妖精みたいな可愛さじゃないしなぁ……そもそも妖精なんて絵本でしか見たことがないし、この世界に妖精なんて聞いたこともない。うーん。今度出て来てくれたときにもう一度聞いてみようかしら。
そんなことを色々考えているうちに、純魔石水が出来上がった。
「さてと、ここからが問題なのよね」
純魔石水に魔力を送る。結晶化させる魔力と付与する魔力と合わせた魔力。今回はダラスさんに初めて教えてもらったときの青い魔力。
ビーカーの純魔石水をクルクルと揺らしながら、結晶化させる魔力を送る。それと同時に青い魔力を。いつもこの青い魔力を意識し出すと、結晶化がおそろかになってしまう。
そこで考えたのは別々に送るのではなく、送る前に混ぜ合わしちゃえ作戦!
ダサい名前は置いといて……いつもならビーカーを持つ手を通して結晶化の魔力を送る。そしてもう片方の手から青い魔力を送ることを考えていたけれど、そうするとどちらにも集中しないといけなくなり、片方に意識を取られてしまうのよね。
という訳で、手から魔力を流す前に混ぜ合わせちゃう!
体内で魔力を意識し、結晶化の魔力と青い魔力を動かしていく。体内で生み出された魔力を練り上げていく。二つの魔力を色水が混ざり合っていくかのように、体内で混ぜ合わせる。
集中……集中……。練り上がった魔力をゆっくりと体内に循環させ、手にあるビーカーへと流し入れていく。
ゆっくりと……ゆっくりと……。
ビーカーの純魔石水が次第にスライム程度の固さを持ち始めると、手に取りさらに魔力を送る。途切れないように、練り上げた二つの魔力が分解しないようにゆっくりと集中。
次第に石の固さを持ち始めたことに気付き、これ以上魔力を送ると壊れてしまいそうだ、ということが分かった。
魔力を送ることをやめ、ふぅ、と溜め息を吐くと、両手で包み込んでいたものを取り出した。
それはとても小さいが綺麗な青く丸い結晶化された魔石だった。
「あ……」
震える手でそれを摘まみ、ランプで照らすと、透き通った青がキラリと煌めき、とても綺麗だった。
「や、やった……やった! やったぁぁあ!! 出来たー!!」
ガタンと椅子を倒し、勢い良く立ち上がり大声で叫んでしまった。
ダラスさんは驚いた顔をしたが、すぐに冷静な顔となり傍に来て魔石を確認する。
私の掌に乗る小さな小さな魔石。それを指で摘まみじっくりと眺め、手元のランプで照らし確認する。
その姿を緊張しながら待つのが辛い……ドキドキし過ぎて心臓が口から出そうだわ。
「ど、どうですか?」
我慢出来ずにダラスさんにそっと尋ねた。
ダラスさんは一息溜め息を吐くと……
「成功だな」
フッと微笑んで、私の頭をワシワシと撫でた。
「!! やったぁぁあ!!」
初めての魔石! 自分で精製した魔石! ようやく一歩前進したわ!!
「全種類の魔力での結晶化が完璧になれば、次は魔力を一から練り上げて精製する魔石だな」
「!!」
バタッ。そ、そうだった……全種類の魔力……ぐふぅ……。
魔力の種類によって、結晶化の魔力と混ぜ合わせるのはすんなり混ざり合ったり、なかなか上手く混ざり合わなかったりと様々で、四苦八苦しながら精製していった。
そうやって全種類の魔力での精製を完了することが出来たのは、一年ほど後のことだった。
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