第3話 王都へ!
王都への出発の朝、なかなか寝付けなかった私はエナに叩き起こされた。いや、叩かれてはないけどね。
「お嬢様、早く準備をなさらないと出発に遅れてしまいますよ」
「ふわぁあい」
欠伸をしながらもそもそと寝台から下り、エナに手伝ってもらいながら着替えをする。長い銀髪は丁寧に櫛を通さないと傷んでしまうから、と、とても丁寧に整えてくれる。その間もボーっとしたままうつらうつら。
ハッと気付いたときにはすでに可愛らしく結い上げられていた。
髪を整えてくれた使用人にお礼を言うと顔を洗い、靴を履き替え、朝食を食べに食堂へと向かう。
食堂ではすでにお父様もお母様も着席していた。
「おはようございます。ごめんなさい、遅くなりました」
「「おはよう、ルーサ」」
朝の挨拶を済ませ、お母様の向かいに座る。
「今日は朝食が終わり次第すぐに出発するからな」
「はい!」
食事が運ばれて来ながらも、お父様の言葉に過剰に反応し過ぎたからか、元気が良すぎる返事にお父様もお母様も一瞬キョトンとした顔をしたが、そのあと盛大に笑われてしまった。うーん、だって楽しみなんだもの。
朝食を食べている間に荷物は使用人たちが馬車へと運び込んでくれていた。
王都までの距離は大したことはないが、馬車で半日ほどはかかる。途中で休憩を挟み進むため、昼食にとピクニックの用意もしてくれていた。
外套と帽子を身に着け、いざ出発!
先頭には護衛の騎士が二人先導し、その後ろに続く馬車にはお父様とお母様と私が、そのさらに後ろの馬車では数人の使用人と荷物を運ぶ。
ちなみに護衛の騎士も普段からローグ家の屋敷を守ってくれている数名の騎士。他の使用人たちと同様にやはりとても仲が良い。
本来ならば貴族とその護衛騎士というものは親しい関係などにはならないのだろうが、私の家では皆家族だ。使用人にしろ騎士にしろ、初めてローグ家に来た者は皆一様に驚くようだが、次第に慣れてくると皆、それが当たり前かのように家族のように仲良くなる。
私にはそれが嬉しかった。だって家族がたくさんいるって嬉しいじゃない。大好きな人たちがたくさんいるって幸せだわ。
エナたち居残りの使用人たちに見送られながら出発した馬車は順調に進み…………進んではいるけれど…………ガタガタガタガタお尻が痛い…………。
王都までの道のりは一応舗装されているとはいえ、石畳が敷かれていたりとかではない。精々土が平らに整えられているだけだ。途中石が落ちていたりもするわけよ。それを車輪が踏むたびにガタン! と大きく揺れる。
何度か行ったことがあるから分かってはいるが、それでもやはりこのガタガタ道は正直疲れるのよね。
途中、綺麗な花畑が広がる。王都へ行くときはいつもこの場所で休憩をするのだ。使用人たちがピクニックの用意をしてくれる。
暖かな日差しが気持ち良く、のんびりとお茶とサンドイッチをいただく。馬車で痛くなってしまったお尻の休憩を……。
そうして少しの休憩を挟むと再び馬車に乗り込み、一気に王都まで。朝から出発したため、夕方前には到着することが出来た。
王都のなかへと馬車は進んで行く。
石造りの建物が果てしなく連なり、ローグ伯爵領とは比べ物にならないくらの広大な敷地に建物の数。そして圧倒的な人の数。いつも来る度に圧倒される。
馬車の窓から外を眺めると、多くの人々が行き交っている。馬車も二台が往来出来るほどの道幅だ。交通ルールも決められているようで、馬車の通る道と人々が歩く道とは分けられているようだった。
王都にあるいつも宿泊する宿へと到着すると、馬車の扉が開かれる。
「お疲れ様でした」
御者が扉を開け、使用人たちが出迎える。そしてその横にはさらに宿の人だろう人物が同じく出迎えてくれていた。
「ローグ伯爵、お待ちしておりました」
「うん、いつもありがとう」
にこやかに挨拶をするお父様は宿の主人と共にエントランスへと向かった。使用人たちは荷物を運びこんでくれ、私とお母様はお父様のお話が終わるまでエントランスのテーブルでもてなしのお茶をいただく。これもいつも通りだ。
「ねえ、お母様、このあとお父様のお話が終わったら、街を散策しても良いのよね?」
「フフ、えぇ、良いわよ。本当にあなたは王都の街並みが好きなのね」
「だって、珍しいものがいっぱいあるんですもの!」
クスクスとお母様は笑う。だって本当に数えきれないくらいの珍しいものばかりなんですもの!
ローグ伯爵領ものどかで良いんだけど、やはりのどかなだけあって、王都のように最先端のものや珍しいものなんてここでしか見られない! これが楽しまずにいられるものですか!
ソワソワと待っているとお父様のお話が終わったようで、私たちの元へと戻って来た。
「さて、待たせたね。ルーサ、行くのかい?」
「もちろん!!」
意気揚々と返事をしたら、案の定お父様もお母様も盛大に笑った。フフン、笑われても平気なんだから!
「さて、まずはどこへ行きたいんだい?」
「そうね、やっぱり最初は魔石屋!!」
予想をしていたのか、両親は再び二人そろって笑ったのだった。
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