第4話 魔石屋
宿のエントランスから外へと出ると、先程馬車で通ってきた大通り。とてつもなく広い道幅に果てが見えず、多くの人々が行き交い、多くの店も建ち並ぶ。夕方に差し掛かり、飲食店では夕食準備に入っているのか、美味しそうな匂いも漂って来る。
「さて、魔石屋へ行くのだね? いつもの店で良いかい?」
「うん!」
以前何度か王都へ来たときに必ず訪れる魔石屋さん! 大きなお店ではないけれど、とても美しい魔石がたくさん置いてある。いつもマジマジとじっくり観察しているものだから、両親にもお店の人にも笑われているのだけどね。
「もう宿からどう行くか覚えているわ!」
そう言いながらすでに店に向かって歩き出した私をお父様とお母様は慌てて追いかけて来る。
「こら、勝手に行っちゃダメだよ」
お父様が慌てて私の手を取り引っ張った。
「だって、もう知っている道だもの。大丈夫よ」
「知っている道だとしても一人で行動してはいけない。それは分かっているだろう?」
「…………はーい」
ちょっとだけ拗ねて見せたが、一人で歩き回ってはいけないことは分かっていたため、渋々返事をした。
そんな姿をお母様は護衛騎士と歩きながら笑って見守っている。
お父様と手を繋ぎながら大通りを歩き、宿からそう離れていないところに目当ての魔石屋はある。
大通りに面したところだが、王都のなかを流れる運河の見えるすぐ側、橋のかかる袂にある。陽射しが当たりキラキラと輝く水が綺麗だ。大きな運河の対岸にはこの国の城が見える。
かなりの広大な敷地の中心に位置しているため、城自体は小さくにしか見えないのだが、対岸には大きく囲うようにそびえ立つ塀が城を取り囲むように連なっている。石壁で出来た塀は少し威圧感を与えるが、王様が住んでいるんだものね、仕方ないわよね。
目当ての魔石屋へたどり着くと、躊躇することなく店のなかへと入った。扉を開けるとカランコロンと扉に付いた鐘がなる。
外の明るさから比べると若干薄暗いが、魔導具のランプで照らされた店内はそこかしこに置かれた魔石を光り輝かせていた。
「あら、お嬢ちゃんいらっしゃい」
「あ、リラーナ! 久しぶり!」
店内にいた真紅の長い髪に灰色の瞳のお姉さん。この店をやっているおじさんの娘さんらしい。いつも会うたびに可愛がってくれる大好きなお姉さんだ。私のことは少しお金持ちの家の娘、とくらいにしか思っていない。駆け寄って抱き付く。
「また少し大きくなったわねぇ。でも私もまだまだ伸びるわよ! ルーサには負けないんだから!」
少し大人びてきた姿のリラーナ。初めて会ったときは何年前だったか。そのときも両親と共にこの店に来たのだが、子供なのにリラーナは店の手伝いをしていて、子供心に凄いなぁ、と感心したものだ。
リラーナは私よりも三歳年上だったはず。いつも店の手伝いをしていて、店を継ぐのかと尋ねたところ、リラーナは笑いながら「私は魔石よりも魔導具!」と自信に溢れた表情で宣言していた。いつか魔導具師になり父の魔石を埋め込んだ魔導具を作るのだ、と。
リラーナは自身の望み通り、魔導具師の神託を受けたと聞いた。
「羨ましい……」
「ん? なにが?」
どうやら心の声が漏れていたようで、リラーナが不思議そうな顔をした。
「リラーナは神託が希望通りで羨ましいなぁ、って」
「あぁ、ルーサももう神託の時期だっけ?」
「うん! 今回はそのために王都に来たの」
「ルーサもついに十歳になったのかぁ、早いもんだねぇ」
「アハハ、リラーナってば、おばさんみたい」
「おばさんて失礼ね!」
もう! と怒っても笑いながら頭を撫でてくれるリラーナが大好きよ。フフ。
「いらっしゃい」
リラーナとじゃれ合っていると、店の奥からこの店の主人であるリラーナのお父さんが現れた。
「ご無沙汰しております。ダラスさん」
お父様がリラーナのお父さん、ダラスさんに歩み寄り手を差し伸べた。二人は握手を交わし、灰色の髪と瞳で無精ひげのちょっと強面のダラスさんも少しだけ表情が和らいだ。
私が物心つく頃にはすでにこのお店に来ていたほど、もう何年も前からこの魔石屋さんとは縁があるのだ。
石を持って産まれて来たくらいだし、自然と幼いころから石には興味があった。宝石屋や魔石屋を見付けてはフラフラとひとりで歩いて行ってしまいよく迷子になっていたそうだ。
この魔石屋にもそうしてフラフラと立ち寄り、窓に貼り付いてなかを覗いていたらしい。それをリラーナに発見され爆笑されたのだ。顔が潰れるくらい顔面を窓に押し付け覗き込んでいたとかなんとか……覚えてないんだけど……。
それ以来王都に来るたびに立ち寄る魔石屋さんなので、自然とお店の人とも仲良くなる。お父様はよくダラスさんと魔石について話している。今日はお母様も珍しく一緒になって話しているわね。
私はというと、やはり魔石をじっくりと見て回るわよ!
店のなかは入口から壁沿い全てに魔石が展示され、様々な色の魔石がキラキラと輝いていた。
「綺麗……」
「ハハ、本当にルーサって魔石が好きなんだねぇ」
「だってキラキラしていて綺麗じゃない。ねぇ、この石とこの石はなにが違うの?」
魔石の横には値札があるため、値段が違うのは分かるが、同じような大きさの魔石で違うのは色だけのような気がする。それなのに値段は一桁違う。なぜそんなに違うのかが気になった。
「ん? あぁ、こっちとこっちの石は種類が違うから」
「種類?」
「うん、こっちは天然魔石。こっちは精製魔石」
リラーナが石を指差しながら教えてくれた。
「天然魔石と精製魔石?」
「うん、魔石といっても色々種類があるからね。天然魔石はその名の通り、加工もされてない天然で取れる魔石。精製魔石は魔石精製師が作り出したものだね。希少価値や精製する手間だったり、色々あるから値段にもかなりの幅があるよ」
「へぇ、そうなんだ」
「ルーサも興味あるならまた勉強してみたら? 色々あって面白いよ」
私の石好きを分かっているからかニヤッといたずらっ子のように笑うリラーナ。
「うーん、そんなこと聞いたら勉強してみたくなっちゃうじゃない!」
「アハハ、私が読んでる魔石の本、貸してあげようか? 子供でも読める本だし」
「え、良いの!? 読みたい!」
「こら、今回は魔石のために来たんじゃないだろう?」
興奮しながらリラーナに返事をしていると、頭をポンと撫でられ、振り向くとお父様が苦笑しながら私の頭を撫でていた。
「えー、だって気になるんだもの」
「それは分かるが、まずは明日の洗礼式と神託だよ。借りるにしてもそれ以降にしなさい。でないとお前は徹夜して読んでしまうだろう?」
若干呆れたように小さく溜め息を吐きながら言ったお父様。うん、お父様正解! 魔石の本なんて絶対徹夜して読んじゃう。
「明日寝不足のまま行くつもりか?」
「うむむ、仕方ないなぁ」
「仕方ないじゃなくて!」
真面目に答えたつもりがなぜかみんなに爆笑され納得いかないわ。
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