第22話
「我が愛しい娘は度重なる戦での活動に疲弊し、義妹であるミューリエルに聖女としての役割を託した後に陛下の寛大なるお心によって静養することを許された。だがその平穏を脅かしたのであろう! あの輝きこそ我が娘の危機であった! あの家をすぐに引き払いこのような
高らかな元父親の言葉に、私は小さくため息を漏らす。
ツッコミ所が満載だ。
まあ、とりあえずは王家もハシェプスト伯爵家も次の聖女であるミューリエルが御しきれず、貴族と騎士たちの機嫌を取るためにわかりやすく悪者が必要となったのだろう……ということくらいは想像できる。
あの館にいた人間は、彼らからして見れば
金目当てに主人を殺して逃げたのだ……ということにして大々的に裁くことによって、溜飲を下げさせようという腹づもりに違いない。
「暴論も甚だしいですな。いかがなさいますか、殿下」
ハキムの冷静な言葉に救われる思いだけど、私たちが不利なことに間違いはない。
正規の騎士団がこの馬車を取り囲んでいる事実は、どうにも変えようのない事実だ。
捕縛し、なんらかの形で拷問、そして処刑。
これにより国民や貴族の鬱憤を晴らすのと同時に、聖女が弱っていた事実を隠し、奴隷の使用人しか与えず小さな館に押し込めていたという事実から目を逸らしてもらう。
聖女の望みだったと王家がいくら言おうとも、私がどんな生活をしていたのか使用人から話されては困る……ということも含まれているのだと思う。
私は戦争中も、その後も、なんなら聖女になる前も華美な服装などしたことはなかったし、望んだこともない。
対して今の聖女であるミューリエルは着飾るのが大好きな性格だ。
それは聖女になったからといって変えられるものではなく、先日私を訪ねてきた時の格好からも推察できる。
国民にそれを突かれては困るのだ。
ミューリエルを選んだのは王家であることはすでに大々的に発表してしまっている。
たとえ私が本当に聖女としての役割に疲れて交代を望んだのだとしても、不満はどこからでも出てきたに違いない。
(どうやっても多勢に無勢)
私がもし、聖女として国内から立て直すために残ったとしてもきっとそれは神殿の奥で閉じ込められて叶わない。
だからこそ、己を死んだことにしてヴィダに向かって和平を築くために行動したかった。
もし今、ここで捕まれば?
私がいるとわかれば、彼らは投獄されて『聖女誘拐犯』とでも称してやはり処刑される。
助命を願おうがなんだろうが、彼らは自分たちの都合のために行動しているのだから聞き入れてもらえるなんて思えない。
下手したらその波及でサージ叔父様も処刑されるかもしれない。
ましてや、こちらにはラシード殿下がいる。
聖女をヴィダ国の人間が攫おうとした、だけでは済まない。
講和条約を結んだ後に発覚したとは言え、王族を奴隷に貶め、その上罪人として一方的に処断したとなれば戦争は待ったなしだ。
(……それに、愛する娘、ですって?)
あれこれと考えながら、私はすっくと立ち上がる。
突然の私の行動に、ラシード殿下が驚いたように私を見た。
「ラフィーア?」
今、やらなければならないこと。
そこに自分の気持ちが乗っかると、こうも体は軽やかなのだと何故か不思議とそう思ったのだった。
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