第18話
「失礼します、お嬢様……! 殿下!!」
「……
「ラフィーア様、これはいったい……まさか……」
ツヴァイ、いいえ今の彼はラシード殿下の従者であるハキムとしての立場で私を問い質しているのだとわかる。
私のせいで、大切な主人がこのようになったのだ、当然のこと。
でもハキムは
「ああ、ああ、どうして……何故ですか、殿下。魔力欠乏症の患者に魔力を与えて生き残る率など、ほぼないというのに。余程相手の魔力がないか、反発し合うか……それだって相性がまるでわからないままではどうしようもできないと殿下がよくわかっておられるでしょうに!」
「……ハキム」
「兄君に遠慮するあまりに、あの方が暴君を演じねばならなかったことに対する贖罪のおつもりですか! 貴方を信じついてきた我らのことを、どうして……」
慟哭にも似た訴え。
彼に残された時間が少ないとわかっているからこそ、止まらなかったのだろうとわかる。
私はそっと微笑んだ。
ああ、私にはまだやれることがある。
「いいえ、ラシード殿下は死にません。そして殿下の兄君もまた、死なせません」
「……ラフィーア様?」
「私はこの奇跡をお与えくださった神のご意思を、まだわかっていなかったのだわ」
なんと己は小さいことか。
想わずそう呟いたけれど本当にそう思ったのだ。
そう想ったら何もかもが拓けた気がした。
祈る。
私はただ祈る。
この奇跡は祈りから始まったのだ。そして、終わりもまた。
(本当の意味で、奇跡が必要なのはこれからだったんだわ)
私の祈りに応えるように、空から大きな温もりを感じる。
あの日、あの時、私の祈りに応えてくれたように。
これが本当に神なのかはわからない。
だけれど私が救いたいと願うその気持ちに応えてくれたものを、神と呼ばず何と呼ぼうか。
(愛しい人。これが貴方の望みなのよね?)
ずるくて、そしてどこまでも優しい人。
これまで起こしてきた奇跡の輝きよりも数倍強いきらめきがラシード殿下と私を包み込み、傍らのハキムの目を丸くさせた。
でも
それを説明する時間はないけれど、それでも私は自分が理解できているのなら、いつかはきちんと話すこともできるだろうと考えを改める。
(そうね、私には時間ができたのよ)
繋いだ手に、温もりが戻ってくる。
彼が塗った揃いの爪紅も、癒やしの輝きを受けてきらめいている気がした。
「ラシード、愛しい人」
「……ラフィーア、悪い。俺も、勝てない賭けはしないクチなんだ」
「ふ、ふふ!」
この期に及んでかつての私が言った台詞を真似てくる彼に、笑ってしまった。
この後のことを考えると少しだけため息が出てしまいそうだけれど、それでも私は胸の内は喜びに満たされるのだ。
「さあ、忙しくなりますね。きっとこの奇跡の輝きは皆が気づいたことでしょう。ハキム……いいえ、ツヴァイ。私の死亡報告書を作成して役所に提出。ドライは明日の夜まで誰もこの館に入れないように警備を強めてもらって、ウィルとウィニーには少し早くなるけれどこの地を離れる準備をしてもらわなければ」
正しく聖女として行いをするならば、これから忙しくなるのだと私は愛しい人を抱きしめて覚悟を決めるのだった。
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