第17話
淡い光が、繋いだ手に宿るのが見えた。
いけないと思うのに、それはとても美しくて温かい。
「どうして」
とく、とく、と心臓の音がひどく耳に響くような感覚の中、私から出るのはそんな言葉だけだった。
「真実の愛があれば救われるかもしれないだろう?」
「そんなの」
ただの
そう言いかけて私は口を噤んだ。
だってあの戦場でたくさんの命が失われた。
祖国のために、家族のために、友のために、愛する人のために。
そこには数多の〝真実の愛〟があったはずなのだ。
それなのに報われた人はどれほどいたのだろうか?
私は偶然にも奇跡の力をいただいた。
奇跡の力を使って、人々を癒やし彼らを待つ人の元へ帰れるようにと願った。
だけどそれだってすべてが叶ったわけではない。
光が、私の指先にドンドンと吸い込まれる。
(ああ)
涙が出た。
その涙を、繋いでいない方の手で彼が拭ってくれた。
「泣かないで、愛しい人」
「あなたは、酷い人だわ」
「そう、俺は酷いやつなんだ」
言葉遊びでもするかのようにそう答える彼の顔色は明らかに、悪かった。
繋いでいる手はあんなにも温かかったのに、その指先は今やこんなにも冷たい。
魔力は命の源。
それを受け渡す行為は、命を渡しているも同然。
だからこそ、成功は奇跡なのだ。
「私なんかのために。私の命で、多くのことが成せるのに」
「それを俺は望まない」
「貴方を想う人たちがいるのに」
「だからこそ、貴女に託すんだ――聖女よ」
「……酷い人」
愛しいと言いながら、そう呼ぶだなんて。
光が途切れる。
それと同時に、繋いでいた手から、力が抜けた。
「殿下」
私のベッドに寄りかかるように凭れた彼の肩に触れ、私はベッドから降りて抱きしめる。
私の体は自由を得ていた。
目を閉じた彼の、浅い呼吸は苦しそうで、そして体は冷たい。
命が失われていく。
その過程を私は、目にしていた。
「ラシード殿下」
私の呼びかけに、彼がそっと薄く目を開く。
弱々しい、だけれどそこには確かな意思が見えた。
「本当に、酷い人」
彼の頭をかき抱くようにして、私はただ祈るのだ。
これまでの日々と変わらぬように、神にただ、祈るのだ。
(神よ、私はどこまでも愚かな人間で……この奇跡の力を使うには値しないと、恐れ多いからこそ返してしまいたかったのです)
聖女だ、奇跡だと持て囃されて使われて、始めのうちこそ良かれと思っていたそれが本当にそうだろうかと疑問を抱き、利用されるだけされて何もできないことが歯がゆかった。
聖女の奇跡、それを失うことで得られるものは平穏だったのだ。
命が失われる恐怖はあっても、そこには全てから逃げるだけの価値がある平穏があるのだ。
私はただ、あらゆるものから逃げていた。
ラシード殿下はそれを『見えていたからこそ』と評してくださったのだけれど、もし私が本当に賢いのであればもっとやりようはあっただろうに!
聖女として返り咲くつもりはないけれど。
(それでも私のために命を捧げてくれたこの人を、失いたくないのです)
ああ、なんて自分勝手な願いなのだろう。
これが聖女だなんて笑わせる。
それでも手放せないのだ。
この人から捧げられた、
自分がそうされたように、私もまたこの
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