第7話
魔力欠乏症。
それは魔力を持つ人にとって、致命的な病。
誰もが持っている魔力、それは生命の根源に繋がっているとも言われている。
理屈はわからないが、わかっているのは……それが、死に至る病であるということだ。
「いつからだ」
「……ラシード殿下にお目にかかる一月前には、余命一年ほどであろうと医師には言われております」
「だから、だから聖女でなくなったのか? だから奴隷を複数持つことも、この土地に干渉をしてこないと約束させることも!」
「そうです」
「どうしてだ、どうしてそこまで……」
ラシード殿下の言いたいことはわかる。
聖女としてこき使われた挙げ句の魔力欠乏症だ。
私は国に責任を求めることができた。
それを断れば私に命を救われた兵士たちから、そしてその家族から王家は咎められるだろう。
勿論それを力で押さえつけることは可能だろうが、それでも戦争が終わったばかりでそのような混乱は避けたいはずだ。
「それなのに婚約を義妹に奪われ、このような場所に一人……いや、あの奴隷上がりの子供たちを連れて! 俺たちのように帰れるかどうかもわからない男たちを抱えて!」
「叔父が必ず、殿下を祖国の地に戻れるようしてくれるはずです」
「そうじゃない! そうじゃ、ないだろう……?」
「……ラシード殿下」
「魔力欠乏症には、治し方がある。それは、知っているだろう……!」
「存じております」
魔力欠乏症はその名の通り、魔力が失われたことによる弊害だ。
だから魔力を補えば、救われる。
ただ、簡単なように思えてそれは容易ではないのだ。
相手に魔力を与える行為は、危険を伴う。
それこそ、命をかけての行為になる。
相性が、あるのだ。
そしてそれを見分ける方法は今のところ、確立していない。
私が『魔力欠乏症を治したいから誰かお願いする』と言えば王家はきっと、誰かしら生贄代わりに人を差し向けてくれただろう。
特に、戦が長引いていたなら私の意思を無視してでもそうしたはずだ。
(でも、失敗すれば……相手は、死んでしまうから)
それなら、私は私の
叔父が望む状況を作り出すのに、後一手足りないところであったからこれ幸いと聖女の交代についても賛成して、殿下の婚約者の地位も譲って、私のことは地方で療養した後に死亡したとでも発表してくれとお願いすればあとは簡単だった。
国王陛下も、私の婚約者であったアーウィン殿下も、私が『聖女だから』無用の犠牲者を出すことを望まないことを理解し、安堵していたくらいだ。
特にアーウィン殿下は私よりも容姿の優れている義妹に執心のようであったし、誰にとっても都合が良かった。
「ラシード殿下、私は勝てない賭けはしない主義ですの」
「……それは、魔力欠乏症についてか?」
「さあ」
戦は終わった。
だが、戦が終わったら平和が訪れるわけではない。
欠かさず今も、神に祈っている。
大勢を救い、叔父の役に立てたことを感謝している。
ウィルとウィニーはラシード殿下が仰ったように奴隷だ。
私が聖女として働くにあたり、その世話をするために王家から与えられた奴隷。
彼らについても私の死後、自由になれるようすでに手筈は整えている。
だけれど、魔力欠乏症については語っていない。
きっとあの子たちは、泣いてしまうから。
私はそれでも、笑うのだ。
だって今、とても幸せだから。
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