第6話
アインに私の不調が知られてしまってから、さらに二ヶ月が経過した。
彼は私の『みんなには黙っていてほしい』という希望を叶えるためになるべく傍にいてサポートしてくれていたけれど、いつも何か言いたげだった。
そんな彼の優しさに申し訳なく思いつつも、私は他のみんなには不調を気取られないよう、気をつけながら生活を続ける。
この館の中は、いつも静かで平和だ。
つい最近まで戦争をしていた事実が嘘のように穏やかで、食べるものにも困らないし、そして実家にいた頃のように誰かに罵声を浴びせられることもない。
(……だけど、思ったよりもまずいわ)
もう、隠しきれないかもしれない。
あと半年ちょっとだというのに、私が思っていたよりも私の体は言うことをきかない。
「アイン」
「お嬢様、どうかしましたか」
「……話があるの。どうしたら、いいのか一緒に考えてもらうことは……できる?」
本当は、一人でなんとかするべきだったのだと思う。
だけれど私にはどうしていいのかわからない。
覆せないものがあるならば、今後のことを考えるならば、そんな自分の感情など後回しにすることが必要だ。
私は自分の気持ちよりも、守るべきものがあることを知っている。
「問題ありません。……どのようなことですか」
「私の、体調について。自分で考えていたよりも、そして知識にあったものよりもよくないように思うの。だから、今後の生活についてここで暮らすみんなに負担をかけることになるかもしれないわ」
アインは少し考えた様子だ。
それはそうだろう。
私がここにいる理由は彼に話したとおり、叔父からの頼みがあってこそ。
だがそれは同時に『私がここにいるから』この館と土地をどうにかできているという点において欠かせない存在だ。
その私に何かしらあれば、彼らの平穏が脅かされるのだ。
叔父からの連絡が来てくれさえすれば彼らは祖国に戻れるだろうに。
アインが……ラシード殿下がすぐに祖国に戻れない理由は、彼の兄王子による暗殺を恐れてのものだ。
私たちの国が双方争ったのは確かに嵌められたからではあるが、ラシード殿下の兄王子は好戦的でパウペルタスを征服したい欲があったのも事実。
ラシード殿下はかねてより和平の道を模索していた方だと、叔父からは聞いている。
ヴィダの国王は二人の王子、どちらに王位を継がせるか悩んでいるそうだ。
好戦的で行動力のある兄王子と、目立たないが堅実な弟王子。
戦時下においては悩ましいところだろう。
そこで兄王子は考えたのだ、弟を戦地に送って失敗を誘い失脚、もしくはそれに乗じて始末すれば王位が手に入ると。
だがそうなれば、兄王子は再び侵略をしてくるかもしれない。
それならば、パウペルタスの民として与するべきは弟王子のラシード殿下であり、彼が祖国に戻るにしても彼の支援者を集め、パウペルタスとも良好な仲を取り戻してから送りかえすべきなのだ。
そのために叔父は今、奮闘しているはずなのだから。
だから本当はラシード殿下に私のことで負担をかけるのは、良くないことだと思う。
だが、これはもうどうしようもないと判断したからこそ……。
「……私が今から話すことは、みんなには詳しくは話さないでほしいのです」
「お嬢様」
「そしてできれば、できればで構いません。ウィルとウィニーを、この生活が終わった後のあの子たちを、連れて行ってやってはくださいませんか。ラシード殿下」
「……何を……?」
「本当は叔父が来るのを待つつもりでした。ですが、私が思っていた以上に、いいえ、私の見込みが甘かったのでしょう」
悔しい。
私は、自分が想っていたよりもこんなにも弱いのか。
思ったようにならない体にどうしようもない苛立ちを覚えるが、それでもそのことについて悔やむのはまた後でできることだった。
「ラフィーア、きみを蝕むのはいったい何なんだ」
真剣な問いに、私を案じるその目に、私はそっと目を伏せる。
そうしないと叫び出したくなるような、そんな気持ちになったから。
「……私は魔力欠乏症なのです」
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