第3話

「あら、まあ。私の意見を聞いてくださるの?」


「サージ殿から話は聞いている。貴女は協力者であると」


「……ええ、まあ」

 私は少し考える。

 彼はどの程度・・・・まで事情を知っているのだろう?


(そうね、少なくとも……叔父は私の今の状況を知らない)


 ということは、私が話せることはあくまで〝叔父とした〟約束についてまでのこと。

 であれば、それをすりあわせた上でお願い・・・すること彼は許容してくれるということだ。


「……お三方には、この館で一年〝奴隷として〟私に仕えていただくことになります」


「!」


「よせ、ヴァーシル。……続けて」


「表向き、お三方には今名乗っている偽名を継続して使っていただいて、叔父が迎えに来れば良し。来なくても一年後には・・・・・この奴隷契約が解除される旨購入の際、手を加えさせていただきました」


「……一年?」


「はい、そうです」


 一年。

 それが私に与えられた時間だ。


「理由を聞いても?」


「私はかつて、聖女でした」


 そう、私は聖女だった。


 私がもっと幼い頃に始まった戦争。

 それは以前から家庭内で孤立していた私を案じてくれる、そんな優しい人たちまでも巻き込んでいったのだ。


「叔父から聞いているかもしれませんが」


 ハシェプスト伯爵、つまり私の父は政略結婚の末に私を儲けた。

 二人は仮面夫婦で娘の私に興味などない。

 叔父だけが私を可愛がってくれたが、父はそれも好ましく思わない理由だったようだ。


 父と叔父は実の兄弟だが、仲がとても悪い。

 といっても叔父のことを一方的に父が嫌っていると言った方が正しいのだけれど。


 母が亡くなって喪が明けるとすぐに別の女性が後妻として現れた。

 私と一つしか年齢の違わない少女、ミューリエルを連れて。


 私は元々ハシェプスト伯爵家で居場所のない人間だったが、更に孤立していった。


「……私が幼い頃戦争は激化し、叔父は戦地へ行きました。そして私に良くしてくれた人々も。彼らは貴族家の者であったため、定期的に領地に戻ることが許されておりましたが……激戦の地から戻ったのです、どのような状態であったかはお察しいただけるかと」


「……ああ」


 義母も義妹も、なんだったら伯爵という立場から労いの言葉をかけねばならない父までもが『血生臭い』『恐ろしい』『醜い』『汚い』と戦地から帰った兵士たちを罵ったのだ。


 私は優しくしてくれた彼らが傷ついているという、その現実が辛くてたまらなかった。

 戦時中なのだから仕方ないといくら言われても、私にとって家族同然の彼らが傷ついている姿はどうにも胸が苦しかったのだ。


 気がつけば、私は彼らを癒やしていた。

 そしてその力を見た父が私を『聖女に目覚めた』として国に引き渡したのだ。


「……そして戦争は終わりを迎え、私は報奨をいただけることになったのです。聖女としてよく勤めたとして、ヴィダ国出身の奴隷であろうと買う権利。そして私が所有していたこの家周辺の土地に対して一時的に私の所有物とし、税を免除するという報奨です」


「……なるほど」


「叔父様からはラシード殿下の特徴と、そして今後の両国の平和に欠かせぬ方と伺っております。一年の間はこの土地は私のものである以上、誰も手出しはできません。そう国王陛下にお約束いただいております」


「手出しをするものは?」


「こちらの裁量で裁くことも許されております」


「なるほどな」


 ラシード殿下は私の言葉にニッと笑った。

 そしてすぐにその笑みは姿を変える。


 今度は優しげな青年の、儚げな笑みに。


「それではお嬢様、我々三名は本日よりお嬢様の所有物。どのような役目をお望みでしょうか?」


「あら、まあ!」


 変わり身の早さにびっくりだわ!

 思わず笑ってしまった私と、びっくりするウィニーをよそに彼らは一人一人頭を下げた。


「俺の名前はアイン・・・。一通りのことはできますよ」


「わたくしめはツヴァイ・・・・。得意なのは書類作業ですが、そうですね、あとは料理が少々できます」


「オレはドライ・・・……です。力仕事は、お任せください」


 叔父様が与えた仮の名前だとは知っているけれど、それにしたってセンスがないわ。

 大急ぎで考えたんでしょうけどね。


「私の望みはただ一つ。……この土地で、穏やかに仲良く暮らしたいわ」


 家族のようにとまでは、言わないから。

 せめてこの一年を、穏やかに過ごしたい。


 私の願いに、彼らは顔を見合わせたのだった。


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次は朝6時に更新です~

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