同じ夢を見る人

かじゅぎんが

第1話

時々同じ夢を見るんです。


主人公はいつも私で、田舎のあぜ道を散歩している。すると私は、右の叢にぼろぼろの1両の廃列車がある事に気づく。その廃列車はとても年季が入っていて、周りにはツタや雑草が生え、今にも崩れ落ちそう。


そして、夢の中の私は不思議に思い、恐る恐る中に入ってみるんです。すると、中にはテーブル1つと椅子2つがところ狭しと置いてあって、それが邪魔で奥に進めない。そのテーブルにはピンクと白の線が入った可愛らしいテーブルクロスが引いてあって、そのテーブルクロスだけは何故か列車とは違って新品のように綺麗なんです。その事に驚いていると、車両室から黒のエプロンを着た腰を曲げたおじいちゃんが出てきて言うんです、「いらっしゃい」って。


びっくりして周りを見渡すと、入口のドアの傍に看板が立ててあって、そこに「レストラン山中」って書いてあるんです。そこで僕はここがレストランだと気づく。


そのレストランのメニューはおじいちゃんの作るコース料理の一つしかなくて、で、その料理がめちゃくちゃ美味しいんです。夢だから実際には食べてないですけど。

おじいちゃんは車両室で食材を調理し、コース料理のメニューはこの夢を見る度に変わっていって、全部初めて食べる味なんですけど、どれも美味しい。

そして大満足で帰っていく、そんな夢です。



最後にこの夢を見たのは2年くらい前ですかね。

それ以来見ていません。

なので、この夢の事はしばらく忘れていました。今日までは。



今日、急にドライブがしたくなって母の実家まで行ってきたんです。で、向かう途中、あの夢の様な長閑な田舎道を走っていた時に見つけてたんです!あの夢に出てくる1両の列車を!


驚いた私は急ブレーキをかけ、急いで車を降りました。

興奮しながらその列車に向かうと、やっぱり入口の傍に看板が立ててあって、そこには「レストラン『マスカレード・シード』」という文字が。中に入ると内装は夢の列車と雰囲気は似ていたんですが、違うものでした。よく見ると、この列車と夢に出てくる列車は大きさが違っていました。「レストラン山中」の列車はもっと短くて、古い形式でした。


でも、そこの料理も美味しかった。やっぱりメニューはおまかせのコース料理のみで、味は本格的なフレンチでこんな田舎にあるのがもったいないなと思いました。


で、帰り際に店主に言ってみたんです。この店にすごく似た店を夢を見たって。すると店主が言ったんです。

「私もフランスで修行している時、同じような夢を見ました。田舎の中に廃列車を使ったレストランがあって、そこのおじいちゃんが作る料理に感動をしたんです。こんな食材の使い方もあるのかって。その夢を見た後、決めたんです。日本にこんなレストランを作ろうって。あれ?夢のレストランの名前何だっけな」

「レストラン山中」

私達はしばらくの間、目を見開いてお互いの事を見つめていました。驚くのも無理もありません。

だって、2人とも夢の中で、全く同じ架空のレストランに行っていたのですから。

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同じ夢を見る人 かじゅぎんが @kajiyukiya

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