花女2
明転
主人公、花を一輪持っている。
「人魚、いる?」
ポチャンと音がする。
「あんたもここ長いね」
「最近ね、なんだか、いろんなものがうまく回ってるような気がするよ」
手に持った花を示して。
「これね、花女にもらってきた。もう置き場がないからって」
「花女、そんなに悪い奴じゃなかったよ」
「ちょっと話すようになってさ。アニメとか漫画の話とか。自分がパチスロでしか知らなかったアニメの漫画とか、わざわざ東京から持ってきて貸してくれてさ。あいつ、アニメの話になるとすげー早口になるの。オタクじゃん。あと、ソシャゲで一緒にレイドしたり」
「あいつが、常連の客を作って、その客が他の客を引っ張ってきてくれてさ。なんか、そういうのあるんだね。男同士。どこの店がいいとか。デリでも。で、私にも結構な常連客がついてさ。事務所自身がいい感じで回ってて。最近私も羽振りがよくてさ。自動車学校に通ってんだ、今、空いてる時間見つけて。もうちょっとお金たまったら、車買うつもり。軽じゃだめだね。たとえ中古でもちゃんとした車じゃないと。舐められる。だから、今貯金中」
「花女さ、常連客にも、花が好き花が好き、って言ってるみたいで。常連客から、花が送られてくるんだ。デリ車から降りてきたら、手にいっぱいの花束持ってたりしてさ。おかげで事務所は花だらけだよ」
「引き寄せの法則っていうのかな、欲しい欲しいって言ってると集まってくるってやつ。花はいいね。カステラとかだったら、好き好き言ってくる中に、安いカステラとか送られて残念な気持ちになることもあるだろうけど、花は、どんな花でも賑わいだ」
「私も引き寄せの法則してみようかな。欲しいものを口に出して、叫んでみよう」
「(息を吸う)」
「お金が!ほしい!」
「5000兆円くらいほしい!」
「車が欲しい!」
「もっとでかい部屋が欲しい!」
「3万くらいするコートが欲しい!」
「彼氏が欲しい!」
「すっげーみんなが振り返るくらいきれいな顔が欲しい!」
「学歴が欲しい!」
「楽な仕事が欲しい!」
「ソシャゲでSSRが欲しい!」
「逃げ場が欲しい、自分の居場所が欲しい!」
「…やっぱり、この町にいる限り、なんつーか居場所がなくてさ、オカンが今彼氏作って、気が付いたら家にいたりするから、ちょっと家にも今居場所がないんだよね」
「今じゃさ、なんか、あの花まみれの事務所が、一番居場所がいい場所になりつつある」
「…この花さ。花女にもらったんだ。もう、事務所はいっぱいだからって。一番きれいな花を一輪、選んであげるって
「……」
「…実はさ、花女から、誘われてるんだ」
「ふたりで、一緒に暮らさないかって」
「ここから離れて、どこか遠くで、誰も知らないところで、ふたりで」
「そういって、この花を渡されて」
「そんな現実感のない話をされても、ねえ?」
「また来るよ。人魚、バイバイ」
主人公、下手へ去っていく。
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