第47話 超高ランクアイテムと科学者だと思います
「その前にこの男性の手当てが先でしょう。こんな炎天下、しかも虚弱体質だってさっき言ってたじゃないですか」
すると少年は僕の説教など毛ほども興味のない様子で頭をむしる。
「手当て? もう死んでるのに?」
「え……」
「このオッサンは平均レベルの雑魚兵士でも効率的に新火力武具を使えるかの実験体なだけさ。借金に苦しむ妻や子供に金を残そうと志願した科学の生贄だよ」
何の躊躇もなく生贄と言い放つ子供の姿に少しゾッとした。
「あー。勘違いしないでほしいのだが、ぼくは崇高なる『科学者』だ。そこら辺の戦争狂者や戦闘狂と同じ風には思わないでくれたまえ」
科学者……?
でもさっき『教王師団』だって……。
「科学の発展には争いは付きもの。なんて古典的な表現を使いたくはないが概ねぼくの思考を言い表しているかな」
小さな自称科学者は倒れる男性の頭を踏みつけ、冷めた表情になった。
「ほらもう動かない。と言う事で君のデータを取らせてくれるかな?」
「――!! 足を……退けてください。もし本当に亡くなっているとしてもその方が可哀想です……」
「あれ? なんだかやる気溢れる顔になってくれたようだ」
あの毒親達を彷彿とさせる行動に吐き気がした。
あいつらのように快楽や鬱憤の吐き捨てとは少し違うが、人の痛みや苦しみを理解できない人間であることに変わりはない。
「もはや動かなくなったタンパク質の塊だ。君はこんな無用な物体に良心の呵責を覚えると? ぼくのような科学者には無縁の思考をお持ちのようだね」
「クリシェさーん大丈夫ですかー! って……その腕章――」
「ん? 何君」
後ろから駆け寄るヨークさんとそれを睨みつける子供。
「ヨークさん。腕章がどうかしたのですか?」
男の子の右腕にぶら下がる腕章には災竜クルドラドリオス、そして散りゆく赤い薔薇が象形文字のように記されていた。
「あ、あの腕章は……『教王師団』の中でも最過激派集団『テンフィル』の幹部だけが身につける事を許される物です……」
「へーよく知ってるねヒョロヒョロのお兄さん……でもまぁこのぼくが興味あるのはこっちの天パーのお兄さんだから…………さ!!」
「発見No.302 『
「――!! ううううあぁぁ!! す、砂に飲み込まれるぅぅ!!!!」
金髪の少年の語気が強まった瞬間、ヨークさんの足元の砂は『粘土質』の土壌に変化し、みるみるうちにヨークさんの体を砂の底に引き摺り込んでいく。
「ほーら君のデータを取らせてくれないとお友達が死んじゃうよ? このまま肺が破裂する圧力地点まで引き摺り込んで苦しみの中このお兄さんは死に絶える……」
「な、何をしたんですか!?」
「別にー? 金属を引きつける磁力があるように『ある物質』から魔力を流し込めば、水分子を自在に引きつける物質力をこないだ発見してね。それを利用して彼の足元の砂場だけに水分を集中させた。他に聞きたいことは?」
奴の左手に握られたステッキ上部の鉱石が紫の怪しい光を放っている。
おそらくは光っている鉱石こそが奴の言う『ある物質』なのだろうが、そのステッキを上手く自分の体でブラインドしているから迂闊に攻撃できない……。
「えらくつらつらと教えてくれるんですね。僕に脚を掬われないといいですけど……」
「だからさぁ、ぼくは戦闘になんて一ミクロンも興味ないんだよ。ただあらゆる実験の先に待つ結果を見たいだけだ。むしろ君たちがこの『
「助けてぇ!! こ、こ、こ、腰まで入ってますぅ!!」
ヨークさんがもがけばもがくほど、地中中の水を含んだ砂が体に纏わりつく……まるで蟻地獄だ。
「分かった実験に協力します! だからこれを止めてください!」
すると男はまたも冷えた顔つきでこちらを睨みつける。
「――つまらない選択だ。まぁいい。僕の本命は君の斬撃だからね」
すると彼は体のブラインドから怪しく光るステッキを取り出し僕の方に差し出す。
「じゃこの鉱石を破壊してみて? 叡智の結晶とも呼べる超超高硬度結晶体だ」
「わ、分かりました……」
胸を撫で下ろしたもの束の間、ヨークさんの叫び声が砂漠中を駆けた。
「えええ!? まだ続いているのですがぁぁぁ!!」
「な、なんで!? 実験には協力するって……」
「別に協力したら『
「それにこの結晶はまあ生まれて間もない為断言は控えるけど――」
「――おそらく【S+】……今後の実験次第では【SR】ランクも夢ではない代物だ」
SRランク!?
コルヴァニシュにもSランク相当のアイテムなんて数えるほどしかないと言うのに……。
僕の天桜流刀に匹敵する超高ランクアイテム……しかもそれを実験で生み出したのか……!?
「さぁ。早くしないとそろそろお友達が飲み込まれちゃうよ?」
いや、今はそんなことは今どうでも良い。
まずはこを破壊することだけを考えろ。
「おお。その薄ピンクの淡い輝き……科学者として唆るものがあるねぇ」
「ステッキの角度を調整してください。そのままだとアナタの体や腕も巻き込まれます」
「それはご丁寧にどーも…………あ、邪魔だな。これっっ!」
その瞬間、男の子は足元の屍を蹴り飛ばすと気だるそうに体の向きを変えた。
「アナタって人はどこまで……」
黒鞘から抜き取った天桜流刀を上段で構える。
「?? ぼくは戦闘の心得なんて興味ないけど変わった構えだね……。でも『どこかで見た気』もする……」
「行きます……!」
渾身のフルパワーの斬撃に手応えは十分だった。
振り下ろされた空気の斬撃は周囲の空気や砂を巻き上げ、轟音轟かせると砂漠の彼方に姿を消した。
「これでおそらくは……」
しかし手応えとは裏腹に、奴の憎たらしい声が聞こえてきた。
「ざーんねーん。なんだかちょっと……いやかなりガッカリだよ」
巻き上がる砂埃の中、怪しい紫の光りが灯っていた。
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