第43話 反撃開始しようと思います
男がパチンと指を弾いた次の瞬間。
「――ガハッッ!!!」
血だらけになった老人の腹部を何の躊躇もなく平然と蹴るあげる兵士とそれを見て笑う周りの兵士達。
「ロヴァ爺ぃ!!」
「ほら早く修繕費を渡してくれないとおじいちゃんの命が危ないわヨォ〜?」
「ダメじゃアンナァ!! これ以上お前が犠牲になる必要は無い!!」
決死の表情で叫ぶ老人と、呆然とその老人の姿を眺めるアンナさん。
「あーーららラァ……死にたいのネェ〜……」
再度2本の指を高く掲げたフェルトはニヤッと笑い指先に力を込めた。
「――わ、分かった!!」
指先がピタッと止まる。
「何ガァ〜?」
「お金ならアタシが……この店を売ってでも必ずなんとかする! だから……だからこれ以上村の皆に手を出さないで!!」
「ふ〜〜ん……聞き分けのいい子は嫌いじゃないわヨォ〜?」
『チビ野郎!! これ以上俺たちの村に手を出すな!!』
フェルトが手を下ろし掛けたその時、大声と共に村の奥から大勢の人影が姿を現した。
「――ハァ……!? 誰だ今チビって言った奴……」
チビ男の眉間に皺が寄る。
『そうよ! これ以上アンナちゃんを虐めるないで!』
『税金だけじゃ飽き足らず、修繕費まで巻き上げるなんておめぇらそれでも同じ教王国の人間か!』
「み、皆……。なんで……」
「そ、そうじゃワシらはお主の味方じゃよ……アンナ。だからこれ以上苦しまんでくれ……」
「ロヴァ爺……」
涙を浮かべるアンナさんは呆然と奥から近づく村人を見つめる。
「あーーら。あらあらあらあらラァ〜。何よ泣ける話ネェ〜。なりたくもなかった村長をお父様から押し付けられながらも村人を大事にする娘ちゃん。そんな健気な娘ちゃんを慕う村人なんテェ〜〜」
「――で・も・ネェ〜」
するともう一度指の弾ける音が鳴り響き、兵士は右足を思い切り振り上げる。
「――そーゆーお涙頂戴死ぬほどキライなの♡」
「や、やめっ――」
その時、僕の掌は自然と鞘を掴んでいた。
至極当然の反応として斬るべきだと思ったから。
「――――『点殲』!!」
アンナさんの涙が地面にこぼれ落ちたその瞬間、赤い鮮血が空中に噴き上がった。
「あががぅぅぁぁ!! あ、あ、あしがぁぁ!!!!」
鉄の鎧に包まれたはずの右足から流れ出る赤い血と兵士の苦悶の叫びが朝の空に響く。
天桜流刀の圧縮空気を極限まで点に抑えた空気砲。
レンドン先生との訓練では試したことあるけど、ここまで正確に打ち抜けるとは……。
「あああががあぁ!!!」
「大丈夫、足の腱撃ち抜いただけです。ですがそのまま放っておくと患部が壊死する可能性がありますので迅速な手当をおすすめします。僕も人殺しなんて肩書きはごめんなので」
「――この……可愛い顔のボーイのくせにやってくれるわネェ…………槍部隊!! 人数で潰してやりなさい!!」
痛みに転げ回る兵士、そしてフェルトの指示を受けた槍部隊が一斉に襲いかかってくる。
『なにもんだ貴様ぁぁ!!』
『こーの田舎もんが! 死んで詫びやがれぇぇぇぇ!』
いかにも安いセリフを吐きながら突っ込んでくる兵士達。
「あ、あぶないクリシェ君!」
アンナさんの叫び声、槍を突き立て前方から襲い掛かる兵士が見開く瞳。
『――死ねぇぇ!!』
レンドン先生やフィリナさんの連携攻撃に比べれば、まるで止まっているように見えた。
降りかかる5本の槍槍が辿るであろう軌道がくっきりと視認出来る……。
「――――はぁぁぁぁ!!」
――カランっ!
カラン。
カランカラン……。
くっきりと可視化出来るほど圧縮された斬撃波は一帯の空気を巻き上げながら天空に昇っていく。
『――ば……バケモンだ……【B+】ランクに相当する槍達を一瞬で……』
『は、弾き返しただけじゃなく、槍先だけ切り落とすなんて……!?』
ポロポロと地面に落下する槍先とそれを見て腰を抜かす兵士達。
その光景にこれでもかと目を丸くする小さな男。
「な、な、な何やってんのヨォ!? 貴様僕ちんが誰だか分かってんのカァ!? それに何よその光ってる剣ワァ……」
「ま、魔道部隊!! 今のはどんな魔力核が埋め込まれた攻撃なノォ!?」
「――そ……それが……」
いっぱしのローブに身を包んだ魔道部隊の一人は、手にした集魔燈を見つめたまま口籠る。
「なぁに!? 風!? それともその他の増幅系魔力核!?」
もたつく回答にイライラが隠せない様子のフェルト。
「それが…………集魔燈に一切の色変化が見られないのです…………ここまで先程の風圧は魔力による攻撃ではないかと」
「そ、ん、な……そんな馬鹿な話があるわけないじゃないノォォ!!? そんな低ランクアイテムに僕ちんの部隊が負けたとなったらまたあの『リリュス』に先を越されてしまうでショョ!?」
地団駄を踏む短すぎる足と、語気が強まったオカマ口調を見て僕の心は少しだけスッキリした。
「すみません。あなたが誰だかは存じ上げませんが、国民の生活を守るはずの公民である貴方方の行動に我慢ならなかった。それだけです」
「クリシェ君……」
空気の斬撃に言葉を失うヨークさんとアンナさん。
「ヨークさんはロヴァさんを直ちに僕たちの部屋のベッドへ寝かせて、タオルで止血してください。僕はこの人たちの相手をします」
「は、はい!」
指示通りロヴァさんを抱えたヨークさんは驚き固まる兵士たちの横をすり抜けて行った。
「だ、だめだよ! コイツらはこれでも本国から直接送り込まれた精鋭部隊なんだ……! アンタ一人で勝てるはずが……」
精鋭部隊……。
確かに身につけている防具や武具はコルヴァニシュの一般兵に比べると格段に良い素材で造られた物ばかり。
おそらくはさっきみたいに暴力と交渉で村々から巻き上げた金を不正受領しているんだろうな。
「そこのお嬢さんの言う通リィィィ……、ま。もう許すはずもないけどネェ♡」
――! はぁ……やっと起きてくれた。
『ぐあっ!!』
『がぁぁぁ!!』
安堵のため息と同時にフェルトを護衛していた兵士が次々に倒れていく。
「――こ、今度は何ヨォ!!?」
「――だいじょぶあんな。ひとりじゃ。ない」
「――おいおいクリシェ。昨日トラブルを起こさないようとか何とかって言ってなかったかー?」
フェルトの首元に突き立てられたのは交差したナイフ2本。
あっけなく背後を取られたフェルトは勿論、周りの兵士も突然の事に理解が追いついていない様子だった。
「あー…………さすがにこれ以上は我慢出来なかったというか……。で、でも騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません……」
「アッハハ! 何を謝っておる! その神器を持っていながら見過ごすような男だったら我がお主を切っていたわ!」
「くりしぇ。やさしい。ひと。ぜったい。たすける」
微笑む二人の表情を見ていると僕の不安もどこか消えていった。
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