殺しのエリート兵士
バランの体が地面に倒れるのと同時に、ゴングが鳴った。
イシューとセカン、二人の足が俺を挟み込むように蹴る。内臓が激しく揺すぶられる衝撃。膝をついてしまう。
「馬鹿野郎!勝手なことするんじゃねえ!」
ゲッコーがこちらに叫ぶ。
音は聞こえるが姿はわからない。打ち下ろされる拳から丸くなって頭をガードしていたからだ。少しでも力を抜くと潰れたカエルのようになってしまいそうだ。
「このクソガキィ!いい加減にしやがれ!」
脇腹を蹴り上げられてひっくり返る。どの足だったのかはわからない。無防備な腹にさらに拳が打ち下ろされる。完敗だ。
「弱えくせにでしゃばりやがって……!」
「クソッ!てめえも覚悟しろよゲッコー。訳のわからねえ奴を連れてきやがって……おいイシュー、トドメを刺してやろう」
横向きの視界でゲッコーを捉える。奴は奴で仰向けに倒れたままで、立ち上がることもままならないようだ。
子供の泣き声が聞こえる。メーツだろうか。
イシューがゲッコーの脇の下に腕を入れて持ち上げる。さらに伸び切った足をセカンが肩に抱える。ハンモックのようにぶら下げられてしまった。
「二度とバカな真似するんじゃねえぞ!!」
セカンの雄叫びを合図にウェイトリフティングのようにセカンが両足を、イシューが上半身を掲げる。
そして腕を振り下ろす。2人分のエネルギーに重力も加わって、 ゲッコーの体が地面に向かって一気に加速する。そのまま凄まじい勢いで叩きつけた。
柏手のような激しい音がして、ゲッコーが完全に気絶したのがわかった。
二人のダウンを確認したのか、三人の男達の声が遠ざかっていった。
「ケンイチ!」
「ゲッコーさん!」
「おにいちゃん!」
セリアが俺に、サンポーとメーツがゲッコーに駆け寄る。街の人たちは皆避難していた。
「ごめん、あたしその……ビビっちゃって……」
「別にいいよ……それより……起こしてくれ……」
セリアの肩を借りながら立ち上がる。脇腹が痛んだ。よろよろとゲッコーの方に寄る。
「サンポー……とりあえずこいつを家に運ぼう」
「ケンイチさん!だ、大丈夫ですか⁉︎」
「俺はまあなんとかな……こいつはかなりくらってるだろ。早く休ませよう」
俺、セリア、サンポーの3人で支えながら引きずるようにしてゲッコーを運ぶ。
「すみません……俺……怖くて……あんな風に立ち向かっていけなかった……」
「いいんだよ。とっととこいつに燃えピタ貼ってやろう」
「はい!2人分すぐに用意します!」
「……いや俺はいいや……」
「あっちい!」
「うわあー!びっくりした!」
隣の部屋で覚えのあるやりとりが聞こえる。すぐにサンポーが居間に飛び込んできた。
「お、お二人とも!ゲッコーさんが気がつきました!」
様子を見に行こうかと思ったがその必要はなかった。
「てめえコラァ!いい加減にしろよ!」
「うわあー!」
サンポーを後ろから蹴飛ばすようにゲッコーが出てきたからである。
勢いそのままに俺につかみかかる。
「ふざけてんじゃねえぞお前!よそ者が勝手なことするな!」
カチンとくる。何なんだ恩知らずめ。
「てめえこそ殴られっぱなしだったくせに!ちったあ戦えばいいだろ!」
俺も掴み返す。
「とっととでていけ!」
突き飛ばされる。荷物が飛んでくる。
「お前は勇敢なんじゃない。馬鹿なだけだ。もう俺達に関わるんじゃねえ」
荷物を拾い上げて玄関に向かう。
「……行こう、セリア。宿を取らなきゃ野宿になるぜ」
戸惑いつつもセリアも自分の荷物を抱える。
「わかったよ。出ていってやる。ただ言わせてもらうけどな、お前も賢いんじゃなくて腰抜けなだけだぞ」
言い捨てて玄関の扉をピシャリと閉めてやった。
異世界転生 (仮) 天洲 町 @nmehBD
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