姫が勇者に攫われました!
見たところ今日は黒服の人数が少ない。本部も金が儲かりそうにないと人手を出さないのか。
特にアナウンスもなくローブを羽織った彼女が登壇する。ざわざわと観客が騒ぎ始める。小さく拍手も起こる。俺も舞台脇の目立たない場所に移動した。
セリアは観客の顔をゆっくりと眺める。それからゆっくりと頷き、一人の少女を指差した。
「あなた、こちらに上がってきて」
どよめきが起こる。周りの視線を受け止め、不安げな様子で壇上に上がった彼女の手を取り、掲げ上げてセリアは叫んだ。
「皆さん!私は女神の役を彼女に交代します!」
これで町の人たちは納得するのか……?
「彼女が私の後継者で、来月からは私に代わって神の言葉を授けてくれるでしょう!まだ魔法は開花していませんが私にはわかります!彼女以外には有り得ません!皆さんも彼女を助け、その時を待つのです!」
「新しい魔法使い様?」
「おお!そういうことだったのか!」
じわじわと騒ぎが広がっていく。何となく受け入れているがそれでいいのかお前たち。都合のいい街だ。
「それじゃ!あなたご挨拶して。私は降りるわ!」
「ええっ!そんな急に私……」
「さあ!皆さん拍手を!」
ローブを彼女に被せると、混乱と喝采が立ち上りだす。それを見て満足したのか、セリアは壇上から飛び降り、こちらに駆け寄ってくる。
「さ、行きましょ。多分大丈夫でしょ」
セリアと市民の適当さに若干呆れつつも、セリアを荷台にのせ、二人乗りの状態で俺たちは南に向かって走り出した。
漕ぎ始めてしばらくすると、正面に深緑色で見上げる高さの塀に囲まれた洋風の屋敷が見えてきた。
「おお、なんかでけえ家」
「あれ私の家だよ。お城って言ったやつ」
「えっ!すげえーお嬢様じゃんお前」
思わず声が出てしまった。
「お嬢様にお前ってどうなのよアンタ」
その屋敷裏手から数名の黒服が俺たちと反対の方向へ走っていくのが見えた。幸い気付かれてはいないようだ。
正面から右に折れて進む。左手の塀はいくつかのブロックをぶち抜いて続いていた。その角でさらに左に折れる。
そこにも思いもよらぬ光景があった。
正面に黒い壁が立ちはだかった。黒服達が道いっぱいに広がって整列していたのだ。
そしてその真ん中に白い着物の女性が立っている。明らかな敵意を持ってこちらを見つめながら。
「あっ、すいませーん。ラインダンス中とは知らずにー」
静かにハンドルを切り、ゆるく円を描いて転回する。そのまま何事もなくきた道を引き返した。
「何してるのセリア!」
ダメかあー。
「やっば!思ったより情報が早い!勇者逃げて!あ、私も一緒に連れてよ⁉︎」
「当たり前だ!捕まったら俺の方が酷い目に遭うだろこれ!」
地面を砕くつもりでペダルを漕ぐ。一漕ぎごとに加速する。革靴が地面を叩く音。右折。後ろを見られない。迫る足音。息を吐く音が耳元まで迫っている様だ。ヤバい!
「くそー。こうなったら……女神ファイアー!」
ブオオッと音がして背中側で熱と光が生まれたのがわかった。
「うわあ!」
「あちいっ!」
「馬鹿野郎!怯むな!」
奴らの声が少し離れたのがわかった。さらに漕ぐ足に力を込める。
「はっはっはー!見たかー!女神ファイアー!」
「すげえなお前!何したんだ⁉︎」
「ふふん。手から炎を出したのよ」
「すげえー!マジで魔法使いじゃん!」
チラリと振り返ると随分なドヤ顔が待っていた。
「そしてその炎をこの虫除けスプレーでパワーアップさせれば女神ファイアーの完成よ」
「信憑性揺らいだ!今やべえ奴と一緒かも俺!」
さらに左折。勇者と魔法使いは北へひた走る。
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