魔法使いの里 ミヤーザ編
やせいの さぎし が とびだしてきた!
『勇者』名乗る少年、暴行
TVゲームの悪影響、顕著に
青少年の抱える闇
「やっべえ……やっべえんじゃねえかこれ……」
シャカシャカとチェーンが回る音が田舎道に鳴る。頭の中でも新聞の見出しが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。
山道で魔物に襲われた俺は、全力で闘い、見事勝利を収めた。
というのはまあこの謎の勇者ごっこの中の話であって、現実的に考えれば浮浪者を殴り倒して山道に放ってきたのである。悪くすれば命を落とすかもしれない。
戦った後は清々しい勝利の喜びに溢れ、奪い返した自転車に颯爽とまたがった俺はすぐに旅を再開した。
「はっはっはー!見たかー!」
高らかな勝利宣言。しかしすっかり冷静になるのに時間はそうかからなかった。
「うわぁ……誰にも見られてねーだろうな……」
人間とは愚かだ。今更ながら小さい金貨袋も触れずにいればよかったと後悔してきた。
そうだ金貨袋。おっさんの意識が途切れた頃どこからともなく降ってきたあの袋。
「絶対誰かに確認されてんじゃねーか!!!」
後悔の叫びを何度も響かせながら、自転車はミヤーザを目指してタイヤを回転させていた。
太陽がオレンジ色に輝き、コンクリートの道がアスファルトになった頃その看板は見つかった。
『ようこそ南国ミヤーザへ』
「おおっ!ミヤーザだ!疲れたー!」
この頃にはおっさんを殴り倒したことに対する不安は無くなっていた。なぜなら金貨袋が落ちてきたという事実があるからだ。
つまりあのおっさん、いや魔物はこの世界の住人というわけだ。安心した。頭おかしくなったかと思った。
田んぼと古い家が立ち並ぶ街道を走りながら、人を探す。それにしてものどかだ。人はおろか車の一台も走らない。
「まずいなあ、泊まるところがないと。野宿はしたくないぞ……おっ」
店先に野菜や果物を並べた建物が見える。八百屋の様だ。立ち寄って宿屋の場所を聞くことにしよう。
そう思い近づくとなにやら妙な格好をした若い女が、店主であろうおばあさんに話をしている。
「つまりですね、神の化身たる私にこのバナナと玉ねぎとにんじんを捧げなさいと言うことです。それはすなわち神への供物となります。ご利益ありますよ。」
詐欺師だ。
「へえへえ、セリア様がそうおっしゃるのでしたら喜んで。どうぞお持ちくださいな」
おばあちゃんはビニールに詰めた食材をその女にわたす。
「ありがとうございます。それならあとじゃがいももください。冷蔵庫に牛肉もあったらそれもください」
「待て待て詐欺師!」
突然飛び込んできた俺の声に驚いて二人は目を丸くした。そして若い女は不満げにこちらを睨みつけてくる。
「詐欺師ってなによ!私は神の化身よ!」
「うるせーおばあちゃん騙してカレー作ろうとしやがってコノヤロー」
「カレーじゃないですー。ハヤシライスですー」
「似た様なもんじゃねーか!」
「はぁー?『あんた今夜はカレーよー』ってお母さんに言われて、カレーの口で家に帰ったらハヤシライス出されても納得できるってこと?馬鹿舌も大概にしなさいよ!」
くっ、それは納得できねえ。
「とにかくおばあちゃんにそれ返せ!」
「うるせー!女神フラッシュ!」
女がこっち向けた掌から突然閃光が弾ける。視界が一瞬のうちに白く塗りつぶされてしまう。
「うおおああ!なんだなんだ⁉︎」
目の奥が痛い。何度か瞬きをしているとようやく視力が戻ってきて、その間に詐欺師の女は随分遠くに逃げてしまった。
「ちくしょう!絶対逃さねえぞ!!」
追いかけようと自転車にまたがったその時、
「いいんですよお兄さん。あの方は神の化身なのです」
とおばあちゃんの声がした。いつの間にかサングラスをかけてやがる。しかもティアドロップ。渋い。
「嘘だと思うんでしたら今夜中央広場で月に一回の降臨の会が開かれるから行ってごらんなさいな」
ニコニコと語りかけてくるティアドロップおばあちゃん。
ヤバいところに来てしまったかもしれない。
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