第3話 伝説の左足

 今日も昼ご飯は隠れる様に食べていると。


「お兄ちゃん、一緒に食べよう」

「あ、ぁ」


 完全菜食主義者には偏見も多く、可愛い妹にそんな思いはさせたくない。


「やはり、一人で食べる」

「お兄ちゃんのバカ、妹が一緒に食べたいと言っているのよ」


 まあ、確かにこれ以上は心配をかけたくない。ここは一緒に食べよう。椅子を妹の机に持っていく。


 うううう。


 視線を感じる。珍獣でも見るかの様な視線だ。これが世間の視線と言うやつか、誰がと特定できるものではなくただ、嫌悪感だけが心に突き刺さるモノであった。妹の雪美たんも不機嫌になっていく。


 不味いな、何か方法がないか考える。そうだ、甘ったるい飲み物で落ち着かせよう。私はスクールバックから、イチゴジュースを取り出す。イチゴジュースをビーガンでも食べられるかはグレイゾーンであるが、私は食している。


「雪美たん、これあげるから落ち着こうな」

「ありがと」


 雪美たんは甘ったるいイチゴジュースを飲むと目がトロンとする。


「熱いわ……」


 何か媚薬でも飲んだような感じだ。制服の胸の辺りをバタバタさせて熱そうにしている。


「お兄ちゃん、胸が熱いの、この気持ちは何?」


 だから、何故、イチゴジュースで興奮するのだ?ここは逃げるか、私は野菜のお弁当を食べ終わると、逃げる様に自席に戻る。


 ……。


 雪美たんは私の自席までついてきた。


「寂しいの、一緒にいて」


 仕方がない、これ以上、目立つ事もあるまい。私は雪美たんと話すのであった。苦行だ、本当に義妹に手を出したら変態なのであろうか?


***


 私は体育が苦手である。第二体育館で男子はバスケの授業である。しかし、独りで見学である。ここで重要なのはビーガンだからとの差別である。確かに肉を食べれば運動効率も上がるだろう。でも、肉の臭みがどうしても鼻につくのである。結果、野菜しか食べられなくなった。最近の教育事情は個性を重視してむりじいはしない。

体育の授業を見学してもいいのだ。


『ワァー』


 上位カーストの男子がゴールを決めると歓声が沸く。


 ふっ、関係ない世界の話だ。私は体育館を抜け出して。自販機の前に行く。


 うん?先客がいる。雪美たんだ。


 げ、不機嫌である。


 伝説の左足が自販機にヒットした。ここは話しかけるか悩むところである。


「あ、お兄ちゃん」


 見つかった。仕方がない。相手をしよう。


「お兄ちゃん、聞いて、先週まであった。ほうじ茶がなくなっているのよ」


 うむ、分かりやすい不機嫌な理由だ。私は無関心を装って、お茶を買うと第二体育館に戻る。


 ホント、妹の扱いに困る。


 増してや『不機嫌な少女』の異名をとる妹である。


「お兄ちゃん、一緒に見学しようよ」


 あぁぁ


 ここで断ったら伝説の左足がヒットするかもしれない。ま、温い世の中だ、義妹と一緒にいてもかまわないだろう。私と妹は温く生きていくことにした。


***


 朝、雪美たんがジョギングから帰ってくる。朝ご飯は浅野の部屋で食べる事になったのだ。


 私は相変わらずのサラダである。雪美たんは体育会系で中学の時は女子サッカー部の選手であった。地区大会の決勝でフリーキックからのゴールは伝説の左足と言われるほどであった。試合結果は競り負けたが伝説となった。その後、中学でサッカーは引退して朝のジョギングだけが残った。


「雪美たんは何で、サッカーを辞めたの?」

「あ、飽きた」


 完結かつ分かりやすい返事だ。確かに飽きたら辞めるわな。

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