第2話 でれると可愛い。

 私は自室に籠り雪美たんの携帯番号を見ていた。しかし、自室と言ってもタワーマンションである。窓も無く、狭いので息苦しい。


 今日は格段に息苦しいのだ、雪美たんは男子の部屋に興味があるのか何度も入られた。年頃の女子に自室を見せるのは息苦しさを感じる。増して、あの上川だ。おっと雪美たんであった。


 くう~


 私のお腹がなり空腹感を得る。そう言えば今日の夕ご飯はまだであった。確かに、お腹が空いたか。私はダイニングキッチンに行き冷蔵庫を開ける。勿論、食べるのは野菜である。キャベツを大きくきざみ鍋で茹でる。これにドレッシングをかけて食べるのだ。


「おう、今、帰ったぞ」


 うん?


 父親が同じタワーマンションの雪美たんの部屋に行っていたのだ。いずれは私も入る事になるだろうが、あの『不機嫌な少女』の部屋だ。興味は有るが下手に入ったら怒られそうだ。


「父さん、ご飯はどうするの?」

「あぁ、カップラーメンで済ます」


 私の事を不健康と言う人種がいるが、一般人の方がよほど不健康に感じるのは気のせいだろうか。


「お湯なら沸いているよ」

「ありがとう」


 私はキャベツを食べ終わると自室に戻る。


 すると……。


『ティンコン』


 メッセージアプリの着信だ。


『お兄ちゃん、明日、朝、一階のロビーで待つ』


 雪美たんからだ。考えてみると同じマンションに住んでいたのに気がつかなかったのか。


 あの『不機嫌な少女』だよな……。


 上手くやっていけるのかかなり心配だ。


 翌朝、一階のロビーに向かうと。雪美たんが不機嫌そうにしている。それは『不機嫌な少女』のあだ名そのモノであった。


 気が引けるな。


 話さないとダメかな……あの伝説の左足で蹴られたら痛いだろな。


「和人、居るならいると早く言いなさい」


 あー不機嫌だ。ここで隠れているのに見つかるから憂鬱だ。


「ゴメン、今日のラッキー方角を確認していた」

「へー面白そうね」


 簡単にこぼれる笑顔は『不機嫌な少女』の欠片もない。私はスマホを見ながらラッキー方角について説明する。


「おっと、占いもいいけど、肝心な事でした」


 雪美たんは何かスクールバックをごそごそとしていると。お弁当箱を取り出す。


「はい、和人の分」

「おいおい、私がビーガンである事を忘れてないかい?」

「大丈夫、野菜だけのお弁当よ」


 基本、私のお弁当は野菜を茹でて味を付けたものである。


 ここは少し確認してみるか。私はお弁当の蓋を開けると……。


 茹でた星型人参にパプリカの彩りが鮮やかな物であった。そして、きちんとブロッコリーなどお腹に溜まる野菜も入っている。


 これはまさに女子の手作り弁当であった。


「雪美たんが作ったの?」

「ええ、そうよ、私は女子力が高いの」


 高い女子力か……改めて聞くと戦闘民族も倒せそうな力だ。


「さて、学校に向けて出発よ」


 何故か上機嫌の雪美たんであった。


 そして、その日のホームルームの事である。


「えー今日から川上さんは家庭の事情で苗字が浅野になるので、皆、覚えておくように」


 ざわざわ。


 何だ、この威圧感は……私と雪美たんが結婚でもしたかの様な雰囲気である。ホームルームが終わり授業との合間の時間のことである。


 上位カーストの何時もの面子が寄ってくる。


「上川とお前、この苗字変更に関係があるのか?」

「ああああああああああ」

「壊れたフリをしても無駄だ」


 ダメかここは素直に答えよう。その方が後でバレるよりましだ。


「義兄妹になった」

『ドカ』

「あんたら、ワレ抜きでなに話しているじゃ」


 雪美たんである。伝説の左足が壁にクリティカルヒットしている。


「ひいいい」


 上位カーストの面子は散り散りになって逃げだす。


「和人、お兄ちゃん、簡単にばらしてどうするの?」

「ああああああああああああ」

「だから、壊れたフリはしない!」


 いかん、雪美たんが不機嫌だ。私が絶望的な気分になると。先生が教室に入って来る。助かった。これで雪美たんの機嫌が治ればいいだけのことだ。


 一限の数学の授業が終わると、私は雪美たんの近くに行ってみる。


「お兄ちゃん、えへへへへ」


 う!!!可愛い、この笑顔は誰にも負けない力強さがあった。この笑顔の雪美たんと、これから一緒に住むかもしれないのだな。ここで興奮しなければ漢ではない。


 しかし、あれほど不機嫌だったのに授業が終わったらこれである。ここは試しにスタンプを送ってみよう。私はスマホを取り出すと恋人系のスタンプを送ってみる。


「ふむふむ、和人、お兄ちゃんは妹にも手を出す変態と……」


 何故、そこは不機嫌にならずに冷静なコメントを返すのだ。うむ、土下座スタンプを送ると『えへへへへ』と返ってくる。


「じゃ、また、昼休みに」


 と、言って自席に戻る。ふ~う、雪美たんの機嫌が治ってよかった。しかし、本当に義妹に手を出したら変態なのであろうか?私は小首を傾げて歩くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る