不機嫌な義妹が時々優しい

霜花 桔梗

第1話 義兄妹になる。

 私はビーガンである。つまりは完全菜食主義者と訳せる。教室の隅で昼ご飯を向かえ一人で野菜を食べる。


「おい、浅野、また、野菜だけの昼飯か?」


 クラスの上位カーストの面子である。よほど暇なのか私にちょっかいを出してくる。


 すると……『ドカ』と大きな音がした。


 教室の壁を蹴るのは伝説の左足を持つ上川である。こいつもクラスの変人で見た目は綺麗だが何時もイライラしている様子である。


 しかし、私には味方をしてくれる。


「ありがとう」

「ふん!弱弱しいのが気にくわないだけよ」


 上川は顔を赤くして照れている。これは脈ありと思って誘ってみると。


「一緒に野菜食べる?」

「要らない」


 普通は野菜だけの食事は要らないらしい。上川が去っていくと独り取り残される。


 ああああ。


 不器用な人生だと絶望するのだ。


 その日の事である。自宅に帰ると普段は父親が居ない時間のはずが、中から声が聞こえる。両親が離婚して以来この時間は静かであったはずだ。


「おお、和人、帰ったか」

「どうしたの?父さん」

「あ、俺、再婚することになった」


 は?

 

 聞いてないし。私が戸惑っていると。現れたのは上川と年上の女性である。


 はああああああああああああああああ。


 そう、今日助けてくれた上川である。話を聞けばラブコメ並の偶然であるが。父親達が出会ったのは、このタワーマンションからの最寄り駅からの通勤電車で恋に落ちたとのこと。同じタワーマンションとの事で生活範囲が限られているので高校の同じクラスであるのは必然であった。


「お兄ちゃん?」


 お兄ちゃんは恥ずかしい。突然の妹の発生は予想外だ。


「上川、私はなんて呼べばいい?」

「雪美たんでいいかな?」


『雪美たん』それはないだろ、何だよ『雪美たん』って。


 私が混乱していると。


「父さんも『雪美たん』でいいかな?」

「はい」


 喜んでいる。あの上川が照れまくっている。あだ名が『不機嫌な少女』である上川が喜んでいる。こうして義妹ができたのである。

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