#82 それぞれに抱く感想
期末テストも無事に終わり、俺達は夏休みに突入していた。第二回勉強会の甲斐あって、誰一人休日返上で補習室へ行かされることはなかった。
なんといっても、今回の俺達は気合が入っていたのだ。堂島は、夏休み終盤まで部の合宿があり、六人で遊べるのはフィナーレを飾る長野旅行を除けば、最初の数日だけ。つまり、スタートダッシュを補習に邪魔されるわけにはいかなかった。
「眩しい太陽、青い海、綺麗なビーチ……友哉、ついに来たね」
「ああ……!」
俺は青春ノートを開き、『友達と、彼女と海に行く』の項目にチェックを入れる。女子陣は、現在着替え中だ。全部脱いでから履くだけの男達は、先にビーチに出ていた。
「む、まさに最高の環境だな。太陽の熱にも負けず、海中で有酸素運動を行い、なおかつランニング用の砂浜まで用意されている」
「薫、合宿で嫌というほど練習するんだから、今日くらいはサッカーのことを忘れたらどうだい?」
すでに筋骨隆々な体を褐色に染め、この場に良からぬ好感を持っている堂島。どうにか手綱を握ろうと、茂木は堂島の肩に手を置いたのだが……
「って、あっつ! 薫、もしかして熱あるんじゃないか?」
「心配してくれて悪いが、俺はすこぶる元気だ。この熱さは、俺の闘志! 未来で待つ大会への燃え滾る憧れだ!」
「とか言って、筋肉が多いから熱っぽいだけだろ?」
「友哉、物は言いようだ。俺は今、体を包む熱を闘志に変換している!」
実際、堂島に近づくとそこだけ気温が上昇したような感覚に陥る。冬になれば、一家に一人堂島が欲しくなることだろう。
しかし、今は常夏。堂島に当てられ、熱中症になっても大変だ。
「そんなに熱いなら、海入ったらスッキリするかもな」
「む、それもそうだな! そろそろ動きたいと思っていたところだ! では、俺は一足先に泳いでるぞ! うおおおおおおおっ!!!!」
そう言って、堂島は海に向かって一直線に駆け出す。海に入った堂島の姿が水平線の向こうに遠ざかるまで、大して時間はかからなかった。
「……海に来て本気で泳ぐ人って、いるんだね」
茂木は、呆気に取られている。
「同感だ。海って、あくまで水をかけあう場所じゃないのか?」
「……ラブストーリーの見過ぎじゃないかな」
俺の意見にも、茂木は微妙な反応を見せる。たしかに、実体験として海に来たのは初めてと言っていい。参考資料が漫画やアニメ、ドラマであるのは間違いなかった。
「お待たせー! って、あれ? 薫君いないくない?」
「叫び声みたいなの聞こえたし、大丈夫でしょ」
「あははー……。え、ちょっと待って、どうしよう、桃。なんかすごい緊張してきたんだけど」
と、俺達の背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。その声に振り向こうとしたところで、不意に夕夏から待ったが入った。
「まだこっち見ないで! 心の準備、できてないから……」
自分の後方、一体夕夏がどんな水着を身に纏っているのか。焦らされたせいで、俺は悶々とした時間を過ごさなければならなかった。
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