#83 救世主、現る
『誰がどんな水着を着てくるかは、当日のお楽しみってことで!』
そんな井寄の提案により、水着は各自購入ということになっていた。男が何を着ようとさした違いはないだろうが、女子であれば話は別だ。店頭に並ぶ、色とりどりの商品を見たことがあるから分かる。水着は、第二の私服なのだ。(もちろん店内に入ったことはない、とだけは補足させてもらう)
というわけで、夕夏が選んだ水着というのは俺の中では相当な関心事だった。正直なところ、海で遊ぶなんて二の次だ。
「い、いいよ……」
合流した夕夏達に背を向けること五分ほど、ようやく許しが出た。
「ふ、振り向くぞ……」
「うん……」
変に期待感が高まったのもあり、夕夏の姿を目に入れるまでの過程がとてもドキドキする。本当に俺の動きが緩慢だったのか、あるいは錯覚か。振り返るというだけの行為が、長い時間のように感じられた。
俺の視界に、光が射す。太陽が、佇む彼女をスポットのように照らしていた。
「どうかな……?」
白い肌を隠すのは、暗い紺色の水着。フリルが付いたそれは、夕夏の明るい髪色も相まって幻想的な夜を想起させた。
「すごい似合ってる」
「えへへ、ありがと」
喜んでいる様子の夕夏。しかし、恥ずかしさが抜けないのか体は縮こまったままだ。本当に、とても似合っているから堂々としてもらいたい……のだが、この可愛さを見知らぬ男達に見られると思うと気が引ける。
(俺も、一丁前に独占欲なんか抱くようになったんだな)
彼氏としての自覚が芽生えた証だと、胸の内に湧いた感情を前向きに捉える。
「トモちん、空見上げちゃってどうしたんだろう」
「さぁ。夕夏が可愛すぎて直視できないとか?」
「ちょ、ちょっと瑠璃! 揶揄わないでよ!」
……事実とは全く異なる解釈をされている。だが、夕夏の水着姿がすこぶる可愛いというのもまた、事実だ。
「ところで颯斗君」
「なんだい?」
茂木と井寄が向き合う。惚けた返事をする茂木だったが、井寄の用件は明白だろう。
「私も、水着の感想聞きたいんだけど!」
前のめりになった井寄は、むっと頬を膨らませた。それから間を置かず、その場で一回転して見せる。肩が大きく開いた白い水着は、日の光を受けて眩しく輝いていた。
「そうだったね、ごめん。とても似合ってるよ」
さらりと告げられた褒めに、井寄は頬を赤く染めた。付き合う前であれば、『そういうのは彼女に言ってあげなよ!』と茶化していただろう。けれど、もう二人は恋仲なのだ。思う存分、イチャイチャしてもらいたい。
さて、そうなると残るは九条だ。ワンピースにも見える布面積の多い水着だが、スタイルの良さが着こなしに貢献している。流れで何か一言言うべきだとは思う。が、俺も茂木も彼女がいる手前、下手なことを口走れない。こんな時、堂島がいてくれれば……!
「おお、全員集合してるじゃないか!」
そこにちょうど、ひと泳ぎしてびしょ濡れになった堂島が現れた。堂島は、着替えた女子陣を見渡すと、サムズアップしてこう言った。
「む、三人とも良い水着姿だな!」
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