#42 2:1&1:2

 食堂のメニューを食べられないので、各々購買でパンを購入して向かう。目的地は、今いる食堂からそこまで距離はない。

 校舎の外、それでいながら四方を校舎の外壁に囲われた空間。日中の眩しい太陽が覗く中庭に、俺達は到着した。


「中庭か。中々シャレたアイデアじゃないか?」


「そうだな、外で食べるというのも悪くない」


 ひとまず、抗議の嵐にならなくて良かった。これでマイナスな印象を与えてしまえば、俺としてもトラウマになってしまう。


 すでに、ちらほらと他の生徒の姿が見える。彼らの邪魔にならないよう気を付けながら、おあつらえ向きのベンチに腰掛けた。

 三人ずつで使用すれば、横並びになっている二脚に全員座ることができそうだ。


「うーん、なんか寂しいな」


 暗黙の了解での着席は、分かりやすく男女をきっかり分けるものだった。その振り分けを見て、井寄は不服そうに声を漏らす。


「そ、それなら! 私があっちに行ってもいい?」


 そう申し出たのは、明海。つまり、明海は俺が座るベンチへ来ようとしているわけだ。

 井寄を宥めるためか、はたまた俺の隣へ来たいのか。昨日の今日だ、自意識過剰になるのを止められない。だって、後者だとしたらめちゃくちゃドキドキしないか?


「いいよいいよー。トモちん的にも夕夏が行った方が嬉しいだろうしね」


「え、ちょっとそういうわけじゃ……!」


 口元に手を添え、井寄が「にしし」と揶揄うと、明海は慌てたように腕を振り回す。

 その様子を微笑ましく見ていた俺に、想定外の流れ弾が飛んできた。


「トモちんはどう? 夕夏がそっちに来たら嬉しいよね?」


「えっ、俺か!?」


 俺が嬉しいことくらい、誰が見ても一目瞭然だと思うけれど。……だが、大事なのは言葉にすることなのだろう。


 以心伝心。熟年の関係であれば、もしかしたら言わなくとも伝わるのかもしれない。しかし、付き合い始めたとはいえ、俺達はまだ二ヶ月にも満たない仲だ。相手に理解してもらおうと受け身でいていいはずがない。それは他力本願、話しかけられるのを待っていた四月の俺に逆戻りしてしまう。


 俺は腹を括り、本心を明かすことにした。それに、ここにいる友達はそれを笑ったりする人達じゃない。


「……そりゃ、嬉しいに決まってる。彼女が近くにいて、嬉しくないやつなんていないよ」


「そ、そうなんだ……」


 人差し指を突き合わせ、明海は落ち着かなそうな様子だ。彼女の耳は赤いし、きっと俺の顔も赤い。こんな初心なやり取りを見せてしまい、茂木達には申し訳なさが募ってくる。

 まるで映画のキスシーンを家族と見ているような、いたたまれなさを感じたに違いない。


「あ、えっと……」


「おー……」


「案外、大胆だね……」


 弁解をするべく声を発しようとするが、井寄と茂木の反応は予想とは違うものだった。続いて、堂島と九条に目をやる。


「俺は、直球で好感が持てる」


「うん。夕夏も喜んでるみたいだし、いいんじゃない?」


 堂島に至っては、サムズアップまでしてくれている。茶化されないのはありがたいが、まさかこんなにも温かい空間になるとは思っていなかった。むず痒い感覚が体を走り、俺は体を震わせる。

 気を逸らそうと、俺は話の舵を取った。


「っていうか、明海がこっちに来るなら、あっちに行く人も決めないとだよな」


 俺が座るベンチには、今茂木と堂島が座っている。二人のうち、どちらかが井寄と九条の待つ隣のベンチへ行く。女子の方が多い場所なんて、俺なら緊張して一大事だろうが、茂木も堂島も最初から彼女達と同じグループにいたのだ。だから、そこまで酷な道ではないはず……だと思う。


「僕が行くよ」


 先に手を挙げたのは、茂木だ。堂島も異論はないらしく、無言で頷いた。

 さすがモテ男(本人には絶対に言わないが)。異性への耐性が人一倍強いようだ。


 こうして、無事に決まった席順で俺達はようやく昼食を食べ始めるのだった。

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