第233話 国宝・五真具足『花竜颶風』
「あぁぁ! 良かった! 怪我してないよな!?なっ!?」
「いきなり飛ばされて、離れ離れになって……なんとか見つけた」
金属の人間の肩から飛び降りたオルルとルーカは、すぐにアナトミアの元へ駆けつける。
「二人も無事だったんですね。なんか、スゴいモノに乗ってきたみたいですけど……」
オルルとルーカの二人が無事なことは、アナトミアにとっても嬉しいが、それよりも、どうしても二人が乗ってきた金属の人間のようなモノが気になってしまう。
「そうか、アナトミアははじめて見るのか」
クリーガルも金属の人間の肩から降りて、アナトミアの元へやってきた。
「これは、その昔、なんだっけ……えっと、あれだ、ほら、あの斬った、国宝の……」
「覚えてないなら、無理に解説しなくていいですよぅ、クリーガル」
ムゥタンが呆れたように言うと、なぜかオルルとルーカの肩がビクっと上がる。
そんな二人に気がついているのかいないのか、ムゥタンはそのままアナトミアに解説する。
「これは、国宝・五真具足の一つ、『花竜颶風』ですぅ。その昔、空を統べた三頭宇龍と共に、大地を喰らった五頭宙龍と戦った5人の『ミコ』が身につけていたとされる甲冑ですねぇ」
「……颶風ってことは……」
「ええ、あれを着ているのは、クリークスですぅ」
金属の人間のような具足……つまり、鎧を身に纏ったクリークスは、チャフとフライアにも攻撃を仕掛けていた。
「『颶風の剣 晴嵐』」
クリークスの体がぶれるように動いたかと思うと、次の瞬間にはチャフとフライアに風を纏った剣が迫っていた。
「ぐぅ!? これが真の『颶風』……!」
「ちっ!……この巨体で、なんという速さ!」
一度振られたようにしかみえないクリークスの剣は、二人を吹き飛ばし、姿勢を崩させる。
「『花竜颶風』を纏ったクリークス……いいねぇ」
一方、さきほど吹き飛ばされて、なんとか起き上がったヴルカンは笑みを浮かべてクリークスに杖を向けた。
「……おい」
そんなヴルカンに、背後から強烈な炎が浴びせられる。
「お前の相手は俺だ」
「んー……ラーヴァ王子か」
ラーヴァの炎を浴びても、火傷一つ出来ていないヴルカンはつまらなそうに目を細めるのだった。
「……なんか、順調に相手が決まっているようですけど、クリークスさんは二人を相手にしても大丈夫なんですかね?」
「あの具足を纏っているクリークスは『渦雷』と互角に戦えるくらいに強くなっていますから、チャフとフライア程度ならどうにか出来るでしょう」
ムゥタンの答えに、自分の師匠のことを思い出したアナトミアは、少しだけ納得をしつつ、視線を移す。
「じゃあ、あとはあの人ですか……」
ヴルカンはラーヴァと、チャフとフライアはクリークスと戦っている。
つまり、あと一人、アナトミアを退場させようとしている者がいる。
総務省魔法騎士局研究部の部長で、ラーヴァの竜臣だった、リュグナだ。
リュグナは、出口に続く通路の前で気怠そうに立っていた。
「えー……どうしようかな、これ」
リュグナは、大きく息を吐く。
「ドラゴンの解体師に、ムゥタン、クリーガル……相手にするには、しんどいんだけど」
リュグナは、アナトミアの後ろに立っているメェンジンに話しかけた。
「あと、メェンジンもか。今から気が変わって、こっちに戻るつもりはない?」
「戻るも何も、私はアナトミア様をお連れすることが、パラディス殿下のためになると確信しているので、リュグナと同じ立場ですよ?」
「真顔でそんなこと言うんだ」
メェンジンの返答に、リュグナは頭を抱えた。
その様子を見て、アナトミアはムゥタンに小声で質問する。
「……これ、説得とかできないですか?」
「アナトミアさんも分かっているでしょう? 無理ですねぇ」
ムゥタンの答えが正しいことを示すように、リュグナは大きくため息を吐く。
「はぁああああ……本当に、しんどい。やりたくない。けど、思ったよりも強いから、ドラゴンの解体師が私の研究の邪魔になるのは間違いなさそうだし……ヤルか」
リュグナが指を鳴らす。
すると、周囲の壁や天上、床から、ズルズルとドラゴンの石像が現れた。
「この『歯』の研究は結構したからね。5体くらいなら私でも呼び出せる。これで足止めしていれば、ヴルカンがラーヴァ王子を倒してこっちにくるか」
「……これまでの石像よりも強そうですね」
アナトミアの言葉に、リュグナは反応する。
「もう見抜くのか。見た目は同じにしたはずなのに。マジでしんどい。もう少し弱ければ役に立っただろうけど、『弱肉強食』『自然淘汰』『優勝劣敗』……ここまで強い個体がいると、環境ごと壊される、か」
「……環境?」
「おっと、しまった。パラディス陛下に言われていたのに、ムゥタンとラーヴァ、そして、ドラゴンの解体師に聞かれたら狙いにたどり着くだろうから、聞かれないようにしろと」
「狙い……」
アナトミアとムゥタンは目を合わせる。
「……出ない方がいいのでしょうか?」
「アナトミアさんも同じ考えですかぁ」
「どういうことだ?」
「はぁ……さすが……はぁ……」
アナトミアとムゥタンは同じ結論に至ったが、クリーガルは全く分かっていない。
そして、メェンジンがとても嬉しそうに興奮している。
そのことが、二人の予想が当たっている可能性を高めた。
「実際、アナトミアさんはどうにかできますかぁ?」
「黄金の剣オウガか、石切の楔鎚マルヅルが使えれば、ですね。ここでは無理です」
アナトミアは背負っている伐木の斧コクモクに触れた。
「では、一度外に出る必要がある、と」
「そうですね。なるべく早く出ないと」
「うわっ。気がついた。最悪だ。それにどうにか出来そうだし、本当にドラゴンの解体師は、ダメだ」
「あん? アナトミア様のどこがダメだって!?」
「メェンジンもしんどい」
激昂しているメェンジンに呆れた目を向けつつ、リュグナはさらに指を鳴らす。
すると、ドラゴンの石像の表面が割れ、中から黒い甲殻のようなモノが現れた。
「はい、見てのとおりの強化版。強いから諦めてくれると助かる」
「……どうします?」
リュグナが呼び出したドラゴンの石像は、確かに堅そうで強そうだ。
あまり石像を斬ることに協力的でない伐木の斧コクモクでは、倒すのに時間がかかるだろう。
それでは、間に合わない。
誰がどう戦うのか、そういう意図でアナトミアはムゥタンに聞いたのだが、彼女の答えは予想外のモノだった。
「王様とオアザ様も心配ですし、時間もない。私たちは先へ進みましょう。オルルとルーカは、リュグナを含め、このドラゴン達の相手をしていてください」
「へっ!?」
「えっ!?」
「んっ!?」
驚きの声を上げたのは、アナトミアとオルル、ルーカの三人である。
「ちょっ……ムゥタンさん、それは」
「アナトミアさんの護衛という大切なお役目を与えられていたにも関わらず、側にいなかったんですよぅ? これくらいはしないと……」
ムゥタンの冷たい視線を受けて、オルルとルーカは息を呑む。
「……わかった」
「しょうがない」
「え、いや、それはさすがに……」
アナトミアは止めようとするが、それを止めたのは当事者であるオルルとルーカだった。
「……大丈夫だ。確かに、私たちはアナトミア様の護衛を満足に出来ていなかったからな」
「うん。これくらいしないと……」
オルルとルーカはアナトミア達の前に出る。
「正気? 雑兵二人で、私とこの強化型のドラゴンの石像を相手にするって?」
そのまま、二人はドラゴンの石像の前に立った。
「……なぶり殺しはしんどいし、一思いにかみ砕いてあげて」
リュグナが指を鳴らすと、ドラゴンの石像の一体が、口を開けてオルルとルーカに襲いかかる。
砕ける音が、周囲に響いた。
「……オルルさん?ルーカさん?」
砕けたのはオルルとルーカ……ではない。
襲いかかってきたドラゴンの石像の方だ。
ドラゴンの石像に、はっきりと亀裂が入っている
その亀裂の起点は二つ。
頭と胴体に入ったその亀裂は、オルルとルーカの拳によって作られていた。
「その腕はいったい?」
アナトミアが疑問に思ったのは、彼女たちの拳、その腕だ。
鋭利な鱗がびっしりと生えており、まるでドラゴンのようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます