第100話 ボンゴレオルーカとの対決 1
「団長! もう待てねぇよ! ゴレームを助けに行きましょう!」
「そうだ! 副団長を見捨てられねーよ!」
場所は神域:トンリィンの近くにある村の宿屋。米米屋。
一つの宿屋を貸し切り、その広間で十名ほどの武装した者達が騒いでいる。
そして、彼らの先頭に立っている勝ち気な風貌の少女が、机を叩く。
その先には、一人の青年がいた。
彼は手のひらの上に乗せた巾着袋をじっと見ている。
「団長!」
「オルル。うるさい」
「うるさいのはお前だよ! ルーカ! お前は何とも思わないのか!? ゴレームは、私たちを庇って……」
「分かっているから、黙っていて……!」
オルルとルーカ。二人の少女がにらみ合っていると、その間にいた青年が立ち上がる。
「やめてくれ、悪かった。確かに、ゴレームは心配だ。いくらなんでも遅すぎる。もう完全に夜になってしまったからな」
立ち上がったのはボンツ。
彼女たちが所属する冒険者集団『ボンゴレオルーカ』の団長である。
「団長……」
「ゴレームのことをどうするか。決める前に確認しておきたいことがある。アナトミアは、無事だったんだな?」
「団長……?」
副団長であるゴレームの話をしているのに、別の人物、しかも女性の名前を出されて、オルルとルーカはボンツを睨み付けた。
「……あ、いや。勘違いするな。ゴレームを助けに行くにしても、方針を決めるのに大切なことだから聞いたんだ。アナトミアが怪我でもしていたら……穏便な解決は難しくなる」
ボンツの質問に、オルルとルーカは視線を合わせる。
彼女たちの間で、アナトミアに対する報告内容は決まっていた。
「はい。大きな怪我はないと思います。煙幕を投げただけなので……」
「そーだな」
本当は、お風呂場に投げ込まれていたのは爆弾で、その爆発に巻き込まれたアナトミアがどうなったのか、彼女たちは情報を持っていないのだが、そのことをボンツに報告はしていなかった。
もし、アナトミアに爆弾を投げたのだと知られたらボンツがどのような反応をするのか、分からなくて、怖いからだ。
「怪我をしていないなら……謝れば許してもらえるかもな。この解体道具が入っている巾着袋を持っていって……」
「団長!?」
ボンツの意見に、オルルとルーカは驚愕する。
「ダメだ、団長! それは団長が領主に戻るために必要なんだよな?」
「返さなくても、実力で助けにいけばいい。そのために、コレももらっている」
ルーカはボンツに自分の手の甲を見せる。
ルーカは手袋をつけており、その甲には、ドラゴンの爪と牙、そして大蛇の紋章が刻まれていた。
「私が助けに行くから、団長たちはその解体道具を、早くあの人のところに持っていって」
「ダメだ。ソレの力は凄いけど……ゴレームが人質になっていたら、相手は王族の護衛達だ。ルーカ1人じゃ、怪我も無く助け出すのは難しい。それに、俺は領主の立場よりも、お前達の方が大切だ」
「団長」
「ボンツ、ゴレーム、オルル、ルーカ。4人で作った『ボンゴレオルーカ』だ。ゴレームを見捨てることは、俺には出来ない」
「でも、団長……」
「それに、アナトミアを助けるって目標は諦めたわけじゃない。巾着袋を返すときに、直接アナトミアと話せば……」
「団長??」
「ちゃんと話せば……ラーヴァ様が俺たちの後ろ盾になっていることも知らないはずだ。だったら、こっちの味方になってくれるかもしれない。護衛達も、国宝級の価値がある解体道具が戻れば文句はないだろう」
ボンツの意見に、オルルもルーカも返事はしない。
正直、色々な面で楽観的な意見だと思ったからだ。
でも、否定もしない。
否定できるほど、オルル達はアナトミアという少女のことを知らないし、ボンツの想いも知りたくないからだ。
「じゃあ、どうするんだ? ラーヴァ様との取引は……」
「一人、使いに出そう。あの人に、待ってもらうように言って、その間にアナトミアと接触して……」
「……しまったな。これ、使いが出るのを待った方がよかったんじゃないか?」
「うーん、一長一短ですねぇ……使いを追いかけるのに人員を分けるわけにもいかないですしぃ。むしろ、合流された方が厄介なので、現状が一番だと思いましょう」
聞き覚えの無い少女達の声が聞こえて、ボンツ達は慌てて声の出所を見る。
すると、広間の入り口に近い机に、いつの間にか外套で顔を隠している3人の少女達が座っていた。
「なんだ!? どこから入ってきやがった!?」
冒険者達が、少女たちにそれぞれ武器を向ける。
「こういう広間には、どこでも給仕用の出入り口があるんですよぅ。まぁ、冒険者としての腕はあっても、そんなことは知らないし警戒もしないでしょうねぇ……」
「何を言っているんだ、こら!!」
やれやれと首を振る少女に、冒険者の一人が掴みかかる。
『ボンゴレオルーカ』の中でも、ゴレームに続いて体格の大きな男性だ。
だが、そんな大柄の男性が少女たちに近づいた瞬間。
男性の体が浮いた。
「なっ!?」
「何って、説明ですよぅ。質問したこと忘れたんですかぁ?まぁ、あまり頭は良くなさそうですもんねぇ。『ボンゴレオルーカ』の人達は」
そして、ふわふわと天井近くまで浮かんだ男性は、そのまま、まるで何かに叩きつけられたように床に激突する。
「ぐげっ!?」
「自分たちの拠点に乗り込んだ者に対して、あまりにも無警戒すぎませんかぁ?こっちは、一応それなりに警戒してあげたんですがぁ……」
「なっ!?」
瞬く間に、それに何をされたかも分からずに、床と同化してしまった仲間の様子に、冒険者達は動けなくなる。
一方、ボンツと、オルル、ルーカの3人は、別の意味で動けなくなっていた。
「さてと、この様子だと、下っ端さんたちは私たちが誰か分かっていなさそうですが……そこの3人は分かりますよね?」
少女の質問に、ボンツがゆっくりと答える。
「……オアザの護衛。ムゥタンと、クリーガル。そして、もう一人は……」
ボンツは、一度息を飲んでから、言う。
「アナトミア?」
答え合わせをするように、3人は外套を頭から外す。
「色々言いたいことはあるけど……とりあえず、その巾着袋を返してもらえますか?」
アナトミアは、なるべくボンツを見ないように要望を出してみた。
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