第101話 ボンゴレオルーカとの対決 2
「な、なんでコイツらがここに……」
オルルとルーカは、突然現れたアナトミア達に驚愕し、混乱していた。
しかし、彼女たちが信頼する『ボンゴレオルーカ』の団長、ボンツは混乱することはなかった。
「アナトミア……会いたかった。ずっと、トングァンの町を離れたって聞いたから、心配していて……」
混乱はしていなかったが、ボケていた。
色ボケである。
頬を赤く染め、恥ずかしそうにしながらも、それでも、熱心に、熱のこもった目でアナトミアを見続けて、話しかけている。
ちなみに、こうなるから、ボンツはお風呂場への襲撃の際に同行しなかったのである。
「……失礼する」
クリーガルがボンツの目からアナトミアを隠すように前に出た。
同時に、ムゥタンがボンツに話しかける。
「心配していて、とはいいますが、爆弾を仕掛けたくせによくそんな事が言えますねぇ」
話しかけるというより、問いかけた。
「……爆弾?」
「ちょっ!?」
ムゥタンの問いかけにオルルとルーカの二人が慌てる。
そんな二人の様子に、さすがのボンツもアナトミアから目を離し、視線を移した。
「……爆弾? どういうことだ? 煙幕を使ったとは聞いているが……」
「お風呂場が炎に包まれるような爆弾を使われたんですよぅ。誰が用意して、仕掛けたのかは分かりませんが……」
「団長! 違うんだ。私たちだって煙幕を使うつもりだったんだ。なのに、爆発して……!」
「お前達……なんでそれを言わない!」
慌てながら言い訳をするオルルに、ボンツが怒鳴る。
「それは……」
「正直に言ったら、団長がそういう反応するって分かっているから。それに、あの女も怪我をしているようには見えないし、どうでもいいことじゃない?」
「ルーカ!」
呆れたように手を上げるルーカをボンツが睨む。
一方、そんなルーカに賛同するモノがいた。
「そうですねぇ。確かにどうでもいいことですぅ」
ムゥタンだ。
「どうでもいいなんて……!」
「どうでもいいでしょう。アナタ達は、どちらにしてもアナトミアさんが大切にしている解体道具を盗んだのですから」
ムゥタンの指摘に、ボンツは流石に一度口を閉じる。
しかし、すぐに反論してきた。
「大切? いや、それよりも聞いてくれ。俺たちが解体道具を盗んだのは、アナトミアのためなんだ。アナトミアを守るために……!」
「そのようなこと、あのゴレームとかいう人もいっていましたけど、何を言っているんですかぁ?」
「お前じゃ無い! アナトミア、聞いてくれ!俺は、俺たちは、お前を守るために……」
「団長!」
必死に話そうとするボンツを止めたのは、槍を構えたオルルだった。
「オルル?」
「話はあとだ。団長。おい。ゴレームから話を聞いたってどういうことだ?」
「ゴレームが、私たちのことを素直に話すなんて思えない」
ルーカも弓を引いている。
「ゴレームに……まさか!」
ボンツは、ムゥタンを睨み付け、他の『ボンゴレオルーカ』の団員達も武器を強く握った。
より強くなった『ボンゴレオルーカ』の刺すような視線を受けて、ムゥタンはただ一言を返す。
「……遅い」
その瞬間。
広間にいた『ボンゴレオルーカ』の面々。
16人全員の体が宙に浮いた。
「うおっ!?」
「きゃっ!!?」
「なんで私たちが悠々と姿を見せたと思っているんですかぁ? 全員を拘束したからに決まっているじゃないですかぁ」
やれやれとムゥタンは首を振る。
ボンツ達は、見えない何かに縛り上げられるように、徐々に動けなくなっている。
「アナトミアさんに危害を加えたんですぅ。これは立派な反逆罪。覚悟していてくださいな」
びしっと。ムゥタンは宙に浮いて混乱しているボンツに指をさした。
「……いや、反逆罪ではないですよ? 私は王族じゃないので」
そんなムゥタンに、アナトミアは疑問を提示する。
「……まぁ、ほとんど反逆罪みたいなモノですよぅ」
「違います」
「反逆罪(予定)ですぅ」
「(予定)ってなんですか! (予定)って!」
「楽しみにしているぞ」
「クリーガルさんも、なんですか!」
ぎゃいぎゃいとアナトミアがムゥタン達と騒いでいると、ボンツが声を張り上げた。
「く……なんだ、これ……! アナトミア! アナトミア! 助けてくれ! 見えない何かで……動けない!」
そんなボンツに、3人は冷めた目を向ける。
「反逆罪(予定)っていったのに、よく助けを求められますねぇ」
「私も頭は良い方では無いが……どういう神経をしているんだ?」
「これ、何か返事をしないといけないんですかねぇ。というか、さっさと巾着袋を返してほしいのですが」
「返事はしなくていいでしょう。戯れ言が言えないようにそろそろ口を閉じさせますから。解体道具はもう少し待ってくださいな。まずはこの人達を無力化してから……」
ムゥタンが、ボンツに手を向ける。
「話を! 話をさせろ! アナトミアと二人きりで……アナトミア、俺の話を聞いてくれ! 俺たちは君を助けたいだけなんだ! 俺たちにはラーヴァ王子が付いている。きっと、君をオアザから助けることが出来る!」
「何を言っているのか……アナトミアさんはオアザ様と幸せになるんですよぅ!」
「いや、そんな予定はないんですけど」
ムゥタンが開いている手を握ると、徐々にボンツの口が閉じていく。
「アニャトミァ……はやしぅお……」
そのまま、完全にボンツの口が閉じようとした時。
突然、ボンツの体が床に落ちた。
「うぐっ!?」
そして、次々に他の団員達の体も床に落ちる。
「……これは……」
「素晴らしい手際でしたが……このまま終わるのは、面白くないかと」
音も無く。
ムゥタンにもクリーガルにも、アナトミアにも気づかれる事も無く。
綺麗にくり抜かれた壁の向こうに、一人の少女が立っていた。
アナトミア達と同じように外套を羽織り、顔を隠しているためその容貌ははっきりとは分からないが、年齢はアナトミアたちと同じくらいだろう。
「その声は……メェンジン、ですかぁ」
「お久しぶりですね。ムゥタンたん」
「メェンたんって呼びますよぅ?」
「……失礼しました。語感が良いので」
メェンジンという少女は、ムゥタンに謝罪する。
「それで……この場にいるということは、今回の件はメェンジンが仕組んだことですかぁ?」
「まさか。私はただ命じられただけです。あのヴルカンとかいうおじさんに」
「……そこ、言っちゃうんだ」
アナトミア達も、裏にいるのはヴルカンだろうとは思っていたが、堂々と告げられると反応に困る。
「言っちゃいます。私としてはどうでもいい仕事なので。ただ、命じられたことはやらないといけないので、手早く終わらせます」
パンと、メェンジンは音を立てて両手を合わせた。
「……命じられたこと?」
「はい。ヴルカンはどうしても見たいそうで……」
「それは、何ですかぁ?」
アナトミアとムゥタンが質問し、メェンジンの気をそらす。
その間に、クリーガルがメェンジンの背後に回っていた。
音も無く、クリーガルは剣を振り下ろす。
「殺し合いです」
しかし、その剣はメェンジンに届くことはなかった。
消えたからだ。
振り下ろされた剣が。
剣を振り下ろしていたクリーガルが。
そのクリーガルのために話を誘導していたムゥタンが。
アナトミアが。
その他、米米屋にいたボンツ達を含む『ボンゴレオルーカ』の団員達が。
全員、その場から消えていた。
「……さて、録画しないと。面倒です」
メェンジンはそっとつぶやくと、彼女もまた、その場から消えるのだった。
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