第7話 オアザの決意


「さて、どうするか」


 オアザは腕を組んでいる。


 彼の前には、城からつれてきた忠臣たちがいた。


「このまま村を出ても問題はないでしょう。ドラゴン退治の初動は、本来は平民。冒険者の仕事です」


 その中の一人、鎧も武器も身につけていない老人が意見を言う。


 彼の名前はクリークス。


 クリーガルの祖父だ。


 クリークスの言うとおり、ドラゴンの素材は、ドラフィール王国にとって重要な産業の一つだ。


 ゆえに、ドラゴン退治については、民間にも広く許可を出している。


 国だけで狩るには規模が大きく、また負担もあるからだ。


「地域の冒険者が倒せなかったドラゴンが出たときに、領地の兵士がドラゴンを退治します。領地の兵士でも出来なかった時は、国の騎士が。その決まりを守ることに、何の問題もありません」


 クリークスの意見は、もっとも一般的であり、無難な対応だろう。


 そもそも、オアザには今や力と呼べるようなモノはほとんどない。


 権力も、武力も。


 そして、魔力も。


 だが、それでも王族の端くれである。


 王族とは、民を守る存在だ。


「しかし、ドラゴンの解体師殿の言葉を信じるならば、地域の冒険者では倒せないようなドラゴンが襲ってくるのだろう?」


 アナトミアは、オアザに進言した。


 いわく、道を塞いでいたドラゴンの糞を排泄した主は、道中で馬車を襲ってきたカーセ・ドラゴンよりも数倍は強大なドラゴンの可能性が高いらしい。


 カーセ・ドラゴンでさえ、この村の周辺にいる冒険者では手こずるだろう。


 それよりも強大ならば、領地の兵士が対応しなくってはならない。


「この村の領主は誰だ?」


「……王族の管轄地でございます」


「つまり、王族が対応する必要があるということだ」


 オアザの言葉に、誰も反論出来ない。


「兵士は動かせるか?」


「まだ被害が出ておりません。軍が素直に動くかは不明です。それに、こんな小さな村では……」


「ならば、私たちでどうにかするしかないな」


 反論は出来ないが、意見はある。


「……どうにか、とはどうするおつもりですか?」


「もちろん。私が戦う」


「それはなりません!」


 どうしても譲れない意見に、クリークスは声を荒げた。


「オアザ様は、御身のことを考えてください。その体は、もう……」


「しかし、このまま村を見捨てるわけにもいかないだろう」


「ならば、ドラゴンの解体師殿に頼まれてはいかがでしょう? 彼女の腕前は見事でした。カーセ・ドラゴンを一太刀で倒せるのならば、村を襲うドラゴンを相手にしても……」


「やめよ」


 クリークスの意見を、オアザは却下した。


「勘違いするな。ドラゴンの解体師殿の仕事は、ドラゴンを解体することだ。我が国の要となる、ドラゴンの素材を作りだすことだ。ドラゴンを退治することではない」


「しかし……」


「確かに、解体師殿は強かった。だが、村を襲うドラゴンがそれ以上に強かった場合、どうするつもりだ? 彼女の技術は、国の根幹だ。絶やしてはならない。守るべき宝だ」


 オアザは、頬を撫でる。


「それに……解体師殿は生きているドラゴンを相手にすることは忌避していた。感覚が鈍るといっていたが、それならば、彼女にドラゴンの相手をさせるわけにはいかないだろう」


 実際、普段の様子は知らないが、それでもアナトミアは不調に見えた。


 彼女は、生きているドラゴンが柔らかいから、と言っていたが、もしかしたら本当に生きているドラゴンを切る事で、ドラゴンの解体技術に悪影響が発生しているかもしれない。


 ドラゴンの解体技術は、神秘の領域だ。


 何が影響するのか、本当にわからない。


 オアザの強い意志を感じて、クリークスは口を閉じた。


「クリーガルに命じて、ドラゴンの解体師殿を故郷へ送れ。王宮の情報が入るまで私の所で保護しようと思っていたが、こうなると故郷に戻っていただく方がいいだろう」


「……かしこまりました」


 クリークスは、ゆっくりと頭を下げる。


「……さてと、私の手を汚したドラゴンはいつ来るのやら」


 オアザは、手のひらを見つめて苦笑した。



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