第4話 クビの理由

「やっといなくなったか」


 ドラゴンの国、ドラフィール王国の魔獣省に勤めるマコジミヤは、唇を大きく歪めた。


 ドラフィール王国の輸出品の中でも最も利益をあげているドラゴンの素材。


 そのドラゴンの素材を解体して作り出すドラゴンの解体部門は、国の要ともいえる重要な場所だ。


 そんな重要な部門で働く事が決まったとき、マコジミヤは心の底から喜んだ。


 そして、実際に働いたとき、心の底から落胆した。


 ドラゴンの解体をしていたのが、当時、まだ15歳の少女だったからだ。


「平民の醜女が、名誉あるドラゴンの解体師なんてな。国の恥だ」 


 今や、ドラフィール王国のドラゴンの素材は、世界中の国が求めるお宝である。


 そのドラゴンの素材を作り出すドラゴンの解体師は、今後外交の際に非常に注目される。


 実際に、100日後には近隣の大国がドラゴンの解体師を見学に来ることになっているのだ。


 その際に、平民の醜女では体裁が悪い。


 なので、マコジミヤはアナトミアを辞めさせる必要があったのだ。


「よろしくお願します」


 マコジミヤの元に若い男性がやってくる。


 名前はケェイニィ。


 領地で冒険者と共に活動していた、家柄も良い男性だ。


 足を負傷して、魔獣と戦うのが難しくなったため、仕事を探していた。


 そこで、マコジミヤが新しいドラゴンの解体師として働かないか、声をかけたのだ。


「お待ちしておりました。今日から、ドラゴンの解体師としてよろしくお願いします」


 マコジミヤはケェイニィを仕事場へ案内する。


「ドラゴンの解体師ですか。国を支える一員になれることを光栄に思えますよ。それで、解体師の方は……」


「すでに辞めてしまいました。体調を崩してしまって……本当は貴方が来られるまでいてほしかったのですが」


「それでは、仕事はどうすればよいのですか?」


「安心してください。資料を用意しております」


 マコジミヤは数冊の本を男性に渡す。


 この本は、アナトミアを辞めさせる前に書かせていたものである。


 ドラゴンの解体技術を国として残しておきたいとお願いし、アナトミアは了承して書いていた。


 結果として、アナトミアは必要なくなったのである。


「スゴイ……こんなに詳細に」


「その本があれば、ドラゴンの解体も出来るでしょう? 領地では魔獣の解体もしていたとか」


「ええ、任せてください!ドラゴンを倒した事もあります。必ずや、この技術をモノにしてみせます!」


 ケェイニィは、その逞しい胸をドンと叩く。


 そんなケェイニィの様子にマコジミヤは安心してその場を離れるのだった。






 アナトミアを解雇して3日後、マコジミヤは頭を抱えていた。


「これは、どういうことです?」


 目の前には、ケェイニィからの辞表がある。


 理由は、ドラゴンを解体出来なかったからだ。


「もう、これ以上は無理です」


 屈強な肉体と精神を持つケェイニィが3日で断念した。


 それほどまでに、ドラゴンの解体とは難しいのか。


「切れないんです。道具も最高のモノを用意してもらえた。書いてある通りに刃を入れた。入れようとした。それでも、切れないんです」


「貴方は領地でドラゴンを倒したこともあると……」


 ケェイニィは首を振る。


「ええ、でも違うんです。本にも書いてありましたが、ドラゴンの死体と生体では、硬さが違う」


 ケェイニィの手は血だらけだった。


「申し訳ございません」


 最後に頭を下げて、ケェイニィは出ていった。




「……クソっ!なんでこうなるんだ!」


 およそ100日後には近隣の国々から視察があるのだ。


 それまでに、なんとしてもドラゴンを解体出来る者を探さなくてはいけない。


 いや、その前に解体出来ていないドラゴンの死体が貯まっていくだろう。


 「くそ、くそ、平民の醜女を辞めさせただけで、なんでこんなことにっ!!」


 マコジミヤの苦悩する声が、魔獣省の部屋に響き渡った。

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