第3話 ドラゴン解体師の実力

「君は、ドラゴンの解体師だったのか」


 首を切り落としたカーセ・ドラゴンをあっという間に解体して素材に変えたアナトミアの横で、男性が目を輝かせている。


「ええ、今日クビになりましたけどね」


 アナトミアは、剣の血を拭うと、薬液につけてから巾着袋に剣を戻す。


「クビになった? どういうことだ? ドラゴンの解体師だったのだろう?」


「どうもこうも、給与を下げると言われたので、それは困ると告げたら、アッサリと解雇ですよ」


 アナトミアの話を聞いて、男性は頭を抱えた。


「何という事だ。ドラゴンの解体師は国の要だろうに」


「お偉いさんの考えていることは私には分からないので。それより、このカーセ・ドラゴンの素材、どうしますか?」


 ポンポンとアナトミアは切り分けられたドラゴンの素材を叩く。


 分けたといっても、一つ一つが人間の体ほどの大きさはある。


「全て運ぼう。幸い、はぐれた馬も戻ってきたしな」


 男性の仲間・・・・・・言動から、おそらくは部下と思われる人達が、数頭の馬を連れて戻ってくる。


 馬車を引くには多いが、並走していた馬もいたのだろう。


「それは良いですね。これだけの素材があれば、壊れた馬車の修理代にはなるでしょう」


「それどころではないが・・・・・・それより、落ち込んでいるようだが、やはり仕事を失ったのがツラいのか?」


 大きく肩を落としているアナトミアを心配しているのだろう。

 見た目はクマが酷くて少々怖いのだが、悪い人物ではないようだ。


「いえ、それもツライですけど。それよりも、生きているドラゴンを倒したことがですね」


「それがどうかしたのか? ドラゴンの解体師なら、ドラゴンの体なんてこれまでに何体も切ってきただろう?」


 男性の質問に、アナトミアは口を尖らせる。


「そうなんですけど、生きているドラゴンを切ったのははじめてだったんです」


「そうか、それは恐ろしかっただろうに」


 アナトミアは簡単にカーセ・ドラゴンの首を切り落としたようだったが、本当は恐怖と戦っていたのだろう。


 そう思った男性の心配をアナトミアは否定する。


「いえ、怖くはなかったです」


「なら、なんで・・・・・・・?」


「恐怖とかじゃなくて、単純に、ドラゴンの首が柔らかかったんですよ」


「柔らかかった?」


「はい。死んだドラゴンは血肉が固まって、生前よりも固くなるって話は知っていたんですけど、生きているドラゴンがあんなに柔らかいなんて思わなくて」


「・・・・・・・それは、何か困るのか?」


「なんか、感覚が狂いそうじゃないですか」


 なので、死んだカーセ・ドラゴンの解体をしたのだが、死んですぐだとまだ体が柔らかいままだった。


 結局、普段斬っている感覚が取り戻せなくて、アナトミアは不満だったのだが、それが落ち込んでいるように見えたのだろう。


「ドラゴンの体を柔らかかったとは、さすがはドラゴンの解体師様ですな」


 男性の隣に、身なりの良い老人が立つ。


「準備が出来ました。いつでも出発出来ます」


 老人の言うように、いつの間にかドラゴンの素材は全て回収されている。


「そうか。そういえば、アナトミアはこれから行くアテはあるのか?」


「いえ、特には。正直、途方に暮れています」


「なら、私の所へ来ないか?」


 男性はアナトミアに手を差し出す。


「申し遅れたな。私の名前はオアザ・ドラフィール。この国の王弟だ」


 男性、オアザの自己紹介を聞いて、アナトミアは思考を止める。


「お、王弟?」


 アナトミアの記憶が確かなら、彼女は先程この男性、オアザを蹴り飛ばしたはずだ。


「お、王弟。王弟って、あの、その、というか、さっきは……」


「さぁ、行こうか。どちらにしても、君のような可憐な女性をそのままにしておくことは出来ないからね」


 困惑したままのアナトミアは、そのままオアザに連れていかれるのだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る