第2話 ドラゴンに襲われるのはもちろん馬車
「うむむ。ここはどこだろうか」
仕事を探して街を彷徨っていたアナトミアは、気がつけば見知らぬ森にいた。
「えーっと、仕事を探して歩いて歩いて・・・・・・あまりにお断りされて、人が嫌になって、人がいない場所を探して」
結果として、街を外れた薄暗い森に、アナトミアは立っていた。
「えー、どうしよう。街はどっちかなぁ。さすがに、夜になると危ないから戻りたいんだけど」
おそらくはこっちだろうと、カンを頼りに歩き出したアナトミアは、騒ぎ声がしていることに気がつく。
「なんだろう?」
気になって騒ぎの元へ駆けつけると、馬車がドラゴンに襲われていた。
「あれは・・・・・・カーセ・ドラゴン!」
カーセ・ドラゴン
小型のドラゴンの一種であり、茶色い鱗と長い爪が特徴。
人間の乗り物に興味を示すことが多く、特に馬車を見つけると襲いかかり、馬車を巣へ持ち帰ってしまう。
数多くのドラゴンを解体してきたアナトミアは、すぐに馬車を襲っているドラゴンの種類を特定した。
「カーセ・ドラゴンはそんなに強いドラゴンじゃないから、武器を持って戦える人が10人もいれば勝てるだろうけど・・・・・・」
馬車から人が出てくる気配がない。
「戦える人がいないのかな? このままだと、馬車が壊されてしまうけど・・・・・・」
そのまま様子を見ていると、カーセ・ドラゴンが馬車を爪で掴んだ。
「・・・・・・マズイ、巣に持ち帰るつもりだ」
馬車から人の声が聞こえている以上、誰かがいるのは間違いない。
助けようとアナトミアが駆け出そうとすると、馬車の扉が開かれた。
「申し訳ない。だが、この馬車は旅に必要でね。持っていかれるのは困るんだ」
中から出てきたのは、目元に深いクマが出来た疲れ切った様子の痩せた男だった。
男は、カーセ・ドラゴンにたいして、頭を下げる。
「国の宝であるドラゴンの望みは出来る限り叶えたいと思うが、我々にも事情がある。どうか、諦めてくれないか」
ドラゴンはかしこい。
人の言葉を理解できる種類も多い。
しかし、カーセ・ドラゴンは馬車に執着があるだけでそこまで賢くはない。
それに、彼らは馬車との逢瀬を邪魔されることを極端に嫌う。
つまり、男性はカーセ・ドラゴンの攻撃対象になった。
「グワァアアアア!」
カーセ・ドラゴンは口を大きく開けて、男性に噛みつこうとする。
「・・・・・・危ない!」
「ぐわっ!?」
その様子を見ていたアナトミアは、思わず男性を蹴飛ばしてしまう。
カーセ・ドラゴンの牙が目の前に迫っていたのだ。
許してほしい。
なお、そのまま噛みついてきたカーセ・ドラゴンの牙は、アナトミアの仕事道具である剣によって防がれている。
「痛た、いったい何が……」
臀部と頬を押さえているのは、先ほど、カーセ・ドラゴンに頭を下げていた男性だ。
「ごめんなさい!でも、危なかったので」
「女、か?」
「あまり生きたドラゴンは相手にするなと言われているけど・・・・・・」
アナトミアは、カーセ・ドラゴンに剣を向ける。
「この状況じゃ、しょうがないよね」
「君は・・・・・・冒険者か?」
「いいえ、違います」
「なら、逃げなさい。私たちのことは大丈夫だから」
いきなり蹴られたのに、男性はアナトミアの事を気にかけている。
「大丈夫ではなさそうでしたよね? まぁ、この場は任せてください」
「任せろと言われてもな」
カーセ・ドラゴンが後ろに跳んだ。
勢いをつけて、アナトミアに襲いかかるつもりだろう。
「心配しなくていいですよ。ドラゴンには慣れているので」
後ろに跳んだカーセ・ドラゴンを追いかけるように、アナトミアも駆け出す。
「おい!」
「グルゥ!?」
アナトミアが向かってきたことに気がついたカーセ・ドラゴンが口を開いて噛みつこうとした。
「・・・・・・そこぉ!」
アナトミアは勢いよく剣を振り抜く。
「グルゥ・・・・・・ウ?」
カーセ・ドラゴンは不思議そうに首を横に傾けると、そのまま、頭が地面に落ちた。
「なっ!?」
あっさりとカーセ・ドラゴンの首を切り落としたアナトミアに、男性は開いた口が塞がらない。
一方、アナトミアはなぜか少しだけ落ち込んでいた。
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