第2話

「わかりました。その条件ならみます。よろしくお願いしますね、レナさん」

「よろしくねレア」

 とりあえず、最初の取引というか提案がうまくいったお蔭で私はかなりここで暮らしやすくなる、と思う。しばらくは殺されずに済みそうだし。

「それで、再三訊くけどレアが私にやってもらいたいことって何?」

 玲奈れなはずっと気になってることをもう一度レアに訊いた。

「単刀直入に言うと、この国のというか私の参謀になってくれない?」

「え?」

 玲奈は意味の分からなさに困惑した。

 私が参謀?という感じが表情に出ている。

「そう。実はね。私、賢者なのよ」

「それはすごいね」

 玲奈はありきたりで単純な誉め言葉を返した。

「でもね、少し前に賢者としての知識とか飛んじゃった!」

 文末に『てへっ』とかつくような勢いとしゃべり方でとんでもないことを言い出すレア。

「あ、安心して全部ってわけじゃないから。ほんの一部の知識だけすっぽり抜けてるのよ。それをレナにやってもらおうって呼んだの」

 後半はごめんねと申し訳なさそうに話すレア。

「ちなみにこのことを知ってるのは?」

「私と私の世話人とこの国の国王つまり父上と宰相閣下。それとレナ」

 これはまずい。非常にまずい。なぜなら逃げ道がほとんどない。それにこの事情を知っておきながら放置するわけない。殺される。ジ・エンド。そんなのいぃぃやあぁー。

「や、やります…」

 そこまで一通り考えを巡らせて、やつれた声で返事を返した。

「そう!ありがとう‼嬉しいわ!」

 かなり嬉しかったのだろうレアはぱあっと顔が明るくなり、玲奈に抱きついた。

 あまりのまぶしさに圧倒され、気を失いかける玲奈にさわやかな柑橘のにおいが香った。

 きけば、この匂いはシース―という果物のにおいらしい。

 何じゃその『ギロッポンでシース―』みたいな名前。魚が思い浮かぶわ。玲奈は己の脳内でそうツッコんでいた。

 シース―は玲奈のいるこの国、ノアルタルの名産品らしい。

 匂いはさわやか柑橘系で味はにおいに反してすっぱくなくむしろ甘い方らしい。

 さらにシース―はこの国と隣国のノアリアでしか育たないらしい。

 シース―は水がきれいなところでしか育てることができない珍しい果物らしい。

 何じゃその『山葵わさび』みたいな特徴の果物。すげー。

 やはり、玲奈は脳内でツッコんでいた。

「さっきから、大丈夫?レナ」

「大丈夫だよ、レア」

 どうやら、多少表情に出ていて頭のおかしい子だと思われたみたいだ。

 玲奈はこれからは気を付けようと心に誓った。だって、頭のおかしい子だから参謀に向いてないって殺されるかもしれないじゃん。とまた思わずツッコむ。



「それより、まずはこの世界の知識をつけてもらわないとね」

 そういって渡されたのは何百ページも何千ページもありそうな分厚い本を数冊、レアが持ってきた。

 今は勉強部屋もとい今後の作戦会議室となる部屋に来た。

 起きてから先ほどまでいた場所はレアの公務室。かなりの広さがあった。

 が、ここはそこまで広くはない。いや、普通に広いけど、さっきと比べての話。

「これからレナには私の参謀になれるように知識をつけてもらう。家庭教師としてレバニラについてもらうから」

 レバニラと呼ばれたその男は禿げたおじいちゃんだった。もうてゅるてゅる。

「ああそれと、書庫にあるすべての閲覧権を彼女に渡すからよろしく」

「承知いたしました。お嬢さま」

 一言だけ付けたし、その場を去るレア。この場に置いて行かれた玲奈。

「それでは、始めましょうか。レナさま」

 最初に少し自己紹介(主にレバニラの)があって、この世界の説明をより詳しく教えてもらった。この世界にある大陸とこの大陸における国々のこととこのノアルタルのことなど地理に関する大雑把な理解を求められた。

 ノアルタルは大陸の東側にある王政の国である。隣国として東南から南にかけてノタリアがあり、北と東に海が、西にジュヴィ国が、直接の隣国ではないが西南方向にエルメルドール帝国がある。このエルメルドールという国とノアルタルは対立しているらしい。


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