夏、涼しい部屋の中で。
―――――――ピンポーン。
インターホンを鳴らせば、中からはドタドタドタッ、と大きな足音が聞こえてくる。
アオちゃんの家に来るまでに体力と気力のほとんどを使い果たした、わたしとカエちゃんとは大違いだ。
「相変わらず元気なこった………………」
「そうだね…………」
ガラガラッ、と引き戸が開く音がすれば、室内の涼しい空気がふわりと頬をなでた。
「やっほー!いや〜わざわざ来てくれてありがとねって何で
「誰のせいだと……………」
「もぅ………どうしてアオちゃんの家はこんな坂の上にあるの………?」
まるで他人事のようにのたまうアオちゃんに、少しだけ恨めしい気持ちが芽生える。
「えっと……………じゃぁ、とりあえず、中にどうぞ?」
「「おじゃましま~す」」
◇◇◇◇◇
アオちゃん、こと
「……………ちょっと葵ちゃん」
「んー?」
「これらちょっとは片付けたら?」
そのため、アオちゃんの部屋にはいつもスケッチブックやカラーペン、絵の教科書などが散乱している。
特に今日はひどいらしく、ちょっと…………というか、かなり、ごっちゃごちゃな状態だった。
控えめに言ってとても中学3年生の女の子の部屋には見えない。
「あー、うん。まぁ……………はい」
カエちゃんに言われ、やっと片付ける気になったみたいだけど……………正直、これはどうかと思う。
というか、普通は人が来る前に片付けるものじゃなかろうか。
「相変わらずひどいなぁ葵ちゃんの部屋……………」
「うん…………言っちゃ失礼だけど結構………………うん」
「ぐっちゃぐちゃだよね」
「ちょおっ………!わたしがオブラートに包んだ部分をっ…………!」
こういう時だけカエちゃんは容赦がない。ズバズバ言う所も嫌いじゃないんだけどね。
「よーし、こんなもんで良いんじゃない?」
「うん………………まぁ、座れるようにはなったんじゃない、かな?」
「…………私たちが帰った後、ちゃんと片付けなね、葵ちゃん」
「前向きに検討することを善処いたします」
「片付けなよ………………」
そんなに言うなんて、よっぽど片付をしたくないのだろう。
わたしもカエちゃんも呆れ顔だ。
「そーだ、冷蔵庫にアイスあるけど何がいい?」
「私、ハー◯ンの抹茶で」
「わたし、同じくハ◯ゲンのバニラで」
「ハーゲ◯無ぇよ!どんだけ贅沢する気だアンタら!!」
むぅ。わたしだって冗談のつもりだったのに。
でも、あれだけ暑い思いをしたんだからちょっとの贅沢くらいは許してほしい、というのも本音だけど。
あっ。おやつと言えば。
「ねぇ二人とも、わたしも今日おやつ持ってきたんだ」
「えっ?ほんとに?私もなんか持ってくればよかったかな………………」
「桜、なに持ってきたの?」
「ふっふっふ………………」
わたしが今日持ってきたのは、最近ハマっている美味しいチョコレート(しかもちょっとお高い)である。
わたしは不敵にほほえみ、満を持してチョコレートを―――――――
ぐにっ。
チョコレートの包装紙をつかんだわたしの指が何かにめり込んだ。
すっ、と手につかんだ物を取り出せば、ぐにゃりと
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………えと」
アオちゃんが口を開き、わたしとカエちゃんの視線がそちらを向いた。
「あたし、アイス取ってくるね。抹茶とバニラ、でいい?」
「あ、うん」
「ありがとアオちゃん」
わたしは手の中のチョコレート(?)をそっとカバンに戻した。
アオちゃんが持ってきてくれたスー◯ーカッ◯のバニラ味を食べながら、わたしは思った。
もう、夏にチョコ持って行くのやめよう―――――――――――――
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