夏とあの子ととチョコと抹茶と

霜月 アカリ

夏、暑い坂道で。

「はぁっ……………はぁ、はぁ……………」

「諦めないでっ!あと…………もう少し、だから!」



 わたし達は歩いていた。


 重い荷物を引きずり、この戦場から、安息の地へとのがれるために。


 しかし、疲れ切った足はもうまともに動いてくれず、先ほどからカタツムリのようにしか前進できていない。



「もう、ダメ…………………」

「へ?」

「もう、歩けない………………お願いカエちゃん、わたしをおいて、先に行って……………」


「何カッコつけてんの!?まであとちょっとでしょ!?」




 季節は夏。

 華の夏休みも終わりに差し掛かった今日、わたし、木下きのした さくらは親友のカエちゃん――――――こと、秋月あきづき かえでと共に坂道を登っていた。


 こうなったことの原因は、わたし達のもうひとりの親友、吉川よしかわ あおいにある。


 今日の朝、『宿題ぜんっっっっっせん分かんない。助けて⭐』とメッセージを送りつけてきた彼女に、『どこまで出来たの?』と尋ねてみれば、返ってきたのは。


『ぜーんぶ白紙!』


 ………………は?


 夏休みの間、一体ナニしてたの?


『ちょっとで良いからさー、楓とふたりで教えに来てよー、あたしマジでヤバいんだよー、おやつ用意するから!ね、お願い!』


 と頼まれてしまっては、わたしもカエちゃんも断るに断れなくなってしまう。



 という訳で、わたし達は歩いていた。

 教科書類&自転車おもいにもつを引きずり、この直射日光の降り注ぐ屋外せんじょうからクーラーの効いた室内あんそくのちへと逃れるために。


 しかし、本日の最高気温は38℃。

 燦々さんさんと降り注ぐ太陽の光は、日焼け止めなんてすり抜けて肌を焼きそうな勢いだし、足元のアスファルトはゆらゆらと揺れて、いっそダンスしてるみたいにコミカルですらあった。



「あ、入道雲……………」



 前を歩くカエちゃんの言葉につられて空を見上げれば、もこもこと膨らむなんとも見事な入道雲が見えた。


 ……………あの入道雲、なんだか大根おろしに似てるなぁ。美味しそう……………



「それにしても、こんなに暑いとさすがにキツイよねー、桜ちゃ――――――――――――ん?」



あぁ、空が青いなぁ…………………



「さ、桜ちゃぁぁあぁぁん!?大丈夫!?」



はっ!わ、わたしは何を………………



「だ、大丈夫。行こっか」



少しぎこちない笑顔で答えて、わたし達は再び歩き出した。

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