もしXがYなら、Yは

5月1日

 けたたましい電子音がして、無理矢理こじ開けた目に写った日めくりカレンダーの日付。セットした覚えの無い目覚ましのアラーム、この世で1番不快なものの1つだ。でも、確かにこの部屋の日めくりカレンダーの通りなら、目覚ましが鳴ってラッキーかもしれない。今日が本当に5月1日なら。ゴミ箱の中には、クシャクシャになった日めくりカレンダーが大量に入っている。普段は、全くカレンダー何か気にしてないクセに、こういうときだけ妙に手の込んだことをする。もう少し寝ていても良いけど、1年に1度位構ってあげないと、少し可愛いそうかもしれない。この部屋の、もう1人の住人のことを。

 2階の自分達の部屋を出て、1階に降りるとダイニングで私と同じ顔の少女が、制服姿でトーストをかじっていた。

「みぃちゃん、みぃちゃんも早くしないと学校、遅刻しちゃうよ?」

 彼女は手の込んだことに、まだ入学前の高校の制服を着ている。こういう努力をもっと別のことに向けて欲しいと思う。

「何が遅刻よ、今日、土曜日じゃん。まだ春休み何だから、ゆっくり寝かせて欲しいんだけど」

 彼女はふてくされて顔をしかめる。多分、今の私と同じ表情だろう。

「つまんねーのー、もうちょっと焦るとか、慌てるとかして欲しいんだけど。誕生日何だからさ、もうちょっとサービスしてくれてもいいんじゃない?」

「今日って5月1日なんでしょ、なら家に誕生日の人は居ません」

「それはちょっと、いじわるすぎじゃない?」

 私達は双子の姉妹だ。綿貫ワタヌキミコトが姉、綿貫ワタヌキマコトが妹、そして運悪く私達の誕生日は1日違いだ。お父さんとお母さんは同じ日にして欲しかったらしいけど、病院の先生が偏屈な人だったらしくって、どうしてもダメだったらしい。それでもまだ他の日だったら良かったのに、よりにもよって私達は最悪のタイミングで生まれてきた。片方は4月2日生まれ、そしてもう片方4月1日生まれ。おかげで、双子なのに学年は違うし、片方は嘘が大好きな生粋の4月馬鹿になってしまった。

「みぃちゃんさぁ、カメラで撮ってさぁ、お母さんとかに送ってよ」

「良いよ、じゃぁ、何か面白いポーズして」

「そこに面白さ必要ないから、ちゃんと5月1日のマコトってコメント付けて送ってー」

「じゃっ、5月1日っぽいポーズして」

「それってどんなよ?」

 それにしても、お母さんだっていきなりこんなのが送られて来たら意味不明だろう。

「つーかさぁ、娘の誕生日にまで旅行中なのってどうなの? あの人達?」

「別にいんじゃない、仲良しで、どうせ夜までには帰ってくるでしょ」

「明日が誕生日の人は良いけどさぁ」

 あんたは嘘付く相手が私しかいないのが不満なんでしょ、というのは言わないことにして、私も朝食を食べることにした。私がトーストをかじってる間、彼女はリビングのソファで横になって、スマホをいじっていた、私のスマホを。

「あんたさぁ、さっきのやつ友達に送るなら自分のスマホでやんなさいよ」

「面倒くさぁい、良いじゃん、減るもんじゃないって」

「友達減ったらあんたのせい、つーかさぁ、あんたそろそろ着替えたら? 制服、シワになるよ?」

「そんときはみぃちゃんの制服で入学式出るから大丈夫」

 このガキは、なんという減らず口を。

「そうだ、あんたさぁ、カレンダー買って来なさいよ」

「カレンダー、何で?」

「あんたが好き勝手したせいでしょ、これから1ヶ月どうすんのよ?」

「面倒くさぁい、みぃちゃんが買って来てよ、私今日誕生日よ?」

「うるさい、あんたがやったんだからあんたが買って来なさい。あんたが新しいカレンダー買ってくるまで今日は5月1日だから。それとも、何? 誕生日プレゼントがカレンダーでも良いの?」

「わーかーりーまーしーた、買ってきーまーす。みぃちゃんどうせ寝たいだけでしょ?」

「寝ません、やる事があるんです、やる事が」

 その後も、あれやこれやぶつくさ言いながら彼女はカレンダーを買う為に家を出ていった。そして私は、ある事に気付いて深くため息をついた。

「制服、着替えてから行きなさいよ」

 あの顔でうろつかれると、等しく私まで恥をかくことになる。その後、私がシャワー浴びたり、何だりかんだりしていると、お母さんからメールが来ていた。ケーキ予約有リ大至急取リニ行カレタシ、だって。とりあえず、身支度して家を出ると、丁度斜向いの人が帰って来る所だった。見慣れない男の子? で最近越して来たらしい。こないだそこのお母さんが、家にも挨拶に来てたらしい。家のお母さんの話によると、2人暮らしで、息子さんは今年から高校生らしい。ということは、学校が同じならさっきの子はマコトと同級生、か。何かちょっと、言ったら悪いけど、怖い感じ? だった。雰囲気というか、何というか、格好、そう格好が。服も何かちょっと、汚れていた気がした。でも黒っぽい服で、勘違いだったかも。何だか、嫌な予感がするような、そんな感じ。あの娘は、まだ帰って来ていない。遠くで、サイレンの音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る