第38話
幸人は“誰の墓?”とは尋ねない。其所に眠るのは誰であるか知ってる上での配慮だろう。
「すみません。せっかく先生に助けて貰った命を……私のせいで」
葵は嗚咽を絞り出す様に。
「お墓に名前も……まだ、名前も付けてあげられなかったのに!」
激情が止めどなく溢れてくる。あの日の事は悔やんでも悔やみきれない。
それは決して消える事の無い、心の傷。
幸人は何も言わず、墓の前に膝を降ろし、両手を合わせ黙祷していた。
どんな慰めの言葉も、それは只の偽善でしかない。
死んだ者は決して生き返らない。今を生きる者に出来る事は、冥福を祈るのみ。
「……先生は、狂座って聞いた事はありますか?」
暫しの沈黙を破り、葵は右隣で黙祷を続ける幸人に問い掛ける。
「ええ。恨みを代行してくれると云われる都市伝説ですね」
幸人の言葉に偽りは無い。また惚けている訳でも無い。
狂座は近年急速に拡大していった“口さけ女”並の都市伝説として、ネット社会の現在ではかなり有名である。雑誌でも何度も取り上げられる程だ。
誰が知っていてもおかしくない。むしろ知らない方が、世間の情報に疎い事だろう。
「……狂座は都市伝説じゃなかったんです。この子が殺されたあの日、私はどうしても許せなくて……。恨みを晴らしてくれる狂座という都市伝説を、携帯から必死に検索しました。」
葵はあの時の事を、その想いの丈を綴っていく。
幸人はただ黙って、その想いに耳を傾けている。
「いくら検索しても、都市伝説検証としての関連サイトが出てくるだけ。だけど何度も……何度も!」
葵のその時の心情は如何程のものだったのか、その震えた声から伝わってきた。
葵の声が一段と高揚する。
「そして突然……繋がったんです。まるで向こうからやってきたみたいに」
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