第37話

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肌寒くとも暖かな日射しを背に、ある場所へ手を合わさせている女性の姿。



その眼前にある小さな突起、その周りには秋桜の花が添えられており、それはまるで小さな墓標。



たがそこに名前は刻まれてはいない。



「小さな……お墓だね」



その穏やかな声に、最初から気付いていたのか、女性はゆっくりと振り返った。



「先生……」



その眼に映るのは、白衣を纏った美しくも穏やかな表情。



絵になる位、スラリとした長身。だが細過ぎるという事は無く、芯の強ささえ感じられるその左肩には、片盲眼の黒猫が指定席の様に居座っていた。



都心の外れにある、ここ如月動物病院の近くの旧校舎、廃校となったその裏には、外れ街を一望出来る裏山があった。



数少ない自然の一部として、廃校同様開拓の予定は無い。



「せめて、見晴らしの良い所にと思って……」



その女性、“杉村 葵”はそう哀愁の表情を目の前の人物、如月動物病院院長“如月 幸人”へと向けた。

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