第35話
「終わったな……」
暗闇に同化してたかの様な黒猫の姿。終了するのを待っていたのか、ジュウベエがそう呟きながら、路地裏の隅からそっと姿を現した。
何時から居たのかは定かでは無いが、少なくとも“消去中”は『雫』の傍らには居なかった。
姿こそ見せなかったが、“見届け役”として常に状況を把握していたのは確かだろう。
「よっこらせっと……」
ジュウベエは『雫』の元へ歩み寄り、跳躍していつもの左肩にその身を預けた。
「相変わらず凄絶だな……。まあ屑にはお似合いの最期ってか」
『雫』の目線の高さで現状を見回したジュウベエは、その凄惨さを理解していながらも、感慨に耽る事は無い。
“これはいつもの事”
消去対象に容赦をしないのは当然の事。
「後始末は向こうが勝手にすんだろ。証拠照明が今回の依頼の鍵だったからな」
それはこの無惨な状態を、証拠としてクライアントに提出する事を意味していた。
事故を装った自然死から殺害後の状況まで、消去の種類はクライアントが希望する事も出来るらしい。
「帰るぞジュウベエ」
二人はアスファルトに咲き誇る“死のオブジェ”をそのままに、一瞥する事も無くその場から立ち去る。
「これであの子も、少しは救われるといいんだかな……」
立ち去る間際のジュウベエの言葉の意味。それはクライアントの気持ちの代弁か。
「……救われる事は無いさ。どんな理由であれ依頼する者、裁かれる者の因果は終わらない。狂座にアクセスしたというのは、そういう事だ。クライアントはこれから、その業を背負って生きていかねばならない……」
しかし『雫』はその考えを一蹴に処す。
依頼した者も消去された者も、同じく罪深き存在であるという事を。
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